第5回 「φ25mmの球体に機能とデザインを落とし込む」、FPM-Trinityによる試作奮闘記
2022年03月15日「ドキドキにあわせてピカピカ光るイヤリング、e-lamp.」。現役大学生のスタートアップで製品化を目指すにあたり、最初のプロトタイプ製作で足踏みしていたところを図研でお手伝いした経緯は、すでにClub-Zの別連載にて記事化しました(この記事の内容+αが、3/17(木)に「MCPCナノコン勉強会」として講演され、無料で視聴できるとのことですので、ぜひこちらのフォームからお申込みください)。
実はそれとほぼ同じころ別のプロジェクトも動いており、今回はその内容を取材し、「e-lamp. アナザーストーリー」的にご紹介することにしました。
運命的な出会いから、2系統の試作が開始
2021年夏、オンラインでのアイデアソン「Tenkaichi」で、Nexstar CEO 山本愛優美さんとFUJI瀧川さん、図研EL開発部の長谷川が運命的に出会います。山本さんのe-lamp.構想に一目惚れした二人は、それぞれ別の方法での試作を提案します。超小型・低消費電力IoTプラットフォームであるLeafonyを用いるやり方が長谷川の提案で、エレクトロニクス3Dプリンター FPM-Trinity を用いるのが瀧川さんの提案でした。
FPM-Trinityでの試作の目標と、外観の特長
Leafonyでの試作が先行していたため、やはりなんらかの付加価値を…ということで、当初目標とされたのが「さらなる小型化」、具体的にはLeafonyによるプロト「φ30mm」に対し、「φ25mm」でした。そこは、電子回路と筐体を同時に製造できるFPM-Trinityの特長を活かし、さまざまなアイディアをつぎ込むことでクリアできたそうです。
また、Leafonyは超小型基板を異方性導電ゴムで積層する構造のため、e-lamp.をケースで覆う必要がありましたが、FPM-Trinityの場合は基板部分もそれ以外の部分も一体で成形できるので、最初から球体として作り込むことができ、デザイン性は比較になりません。また、LEDは3色搭載されており、青、その上が緑、さらに上が赤と、光の色と位置が変化することで、実際の心拍の強さを視覚的に演出しています。
なお、右の写真左下の赤枠内に見える白いものは、電源スライドスイッチです。Leafonyを使った試作では、電源スイッチがケース内部に入っていたのですが、FPM-Trinityでは側面の一部を開口することで、球体という形状を維持しつつ、スイッチがON/OFFできる構造を実現できたとのことです。プロダクトの構想イメージに近い機能を搭載して、プロトタイプを体験した方からリアルなフィードバックをもらえることで、より良いプロダクト開発を進めることができるという点ではFPM-Trinityの大きなメリットであると感じました。
バッテリーライフと、スケッチ(プログラム)書き換え
小型化は実現できたものの、それとトレードオフになるというのがバッテリーライフ。ちなみにLeafonyから機能移植してきた一発目のプロトでは、5分程度で点かなくなってしまったそうですが、今はだいぶ改善されたとのこと。とはいえ、実際に製品化する際には「最低8時間程度はもってほしい」ので、さらなる改善を目指しているそうです。
なおバッテリーに関してはもう一段、充電への対応というステップアップをしたいのと、もう一つは通信機能の搭載によるコミュニケーション性の強化を企画しているそうなので、小型化とのトレードオフはもう少し厳しくなるかもしれません。
また、Leafonyと比べて工夫した点として、マイコンへのスケッチ書き込みが挙げられました。e-lamp.を小型化するにあたり、マイコンとの通信用USB回路は搭載せず、LeafonyのBasic Kit 2に入っているUSBリーフをそのまま活用できるようにLeafonyコネクタ接続部を設計し、スケッチ書き込みなどに使用していたそうです。
今後の課題:部品選定とチューニング
プロトを改版していく中でセンサ部品を変更した、という話が挙がりました。最初のバージョンで使った部品の動作が不安定、具体的には外部のノイズを拾ってしまい、正しく計測できていないようだったので、次のバージョンでその部品を別のものに替えたところ、その現象は解消したそうです。こうした明らかな動作不良への対処は当然として、それ以外にも部品の選定には慎重にならざるを得ない事情が複数あるとのこと。
長谷川曰く、「アナログセンサなので電池を喰っている気がするので、これをデジタルに替えたらどうなるのかとか検証しないといけない」と。ちなみに「同じ機能のセンサ部品でも、1個300円台っていうのから、3,368円ってものまであって、冗談抜きで10倍の開きがある」ので、選定は悩みどころだそうです。また前述の通り、充電と通信への対応を考えているため、「部品選定もそうですし、試作もまだまだしないといけないことがたくさんです」と山本さん。
また、「消費電力と光量がトレードオフになると考えられるので、光量を控えめにして電力を抑えてバッテリーの持ちをよくするようなチューニングもやっていく」そうです。
まだ、プロトの品質は十分に満足のいくものではないようなので、量産に移れるまではもう少しかかりそうですが、とはいえ球形・小型化については早期に実現できたことから、FPM-Trinityでの試作のポテンシャルは非常に高いとの印象を受けました。
「機能込みでの試作をスピーディーにやってみたい」とお考えの読者がいらっしゃれば、ぜひFUJI様にお問い合わせしてみてください。