第11回 「ときめきを形に」、現役大学生CEOの野望をLeafonyでサポート

「Tenkaichi」というオンラインモノづくりイベントで、審査員を担当されていた慶應義塾大学3年生の山本 愛優美(あゆみ)さん。取材のため図研も同イベントに参加していたのですが、彼女が目指すプロダクトの概要を見た開発メンバーが、Leafonyでプロトを作れるのではと閃き、打ち合わせが決定しました。

 

Nexstar CEO 山本 愛優美さん、図研との出会いからプロト完成までの1週間

Nexstar CEO 山本 愛優美さん、図研との出会いからプロト完成までの1週間

 

目指すプロダクト「e-lamp.」、ここまでの時点では光らず

高校2年で起業し、これまでゲームやイベントなどのプロデュースをしてきた山本さん。元々興味を持っていた「ときめき」に対し、慶大の環境情報学部に入ってから学んでいた数理心理学に加え、さらに工学的なアプローチを加えることで、もっとそうしたポジティブな感情を人々の中に増やすことができるのではないかと考えたそうです。
そうして着想したプロダクトが「e-lamp.」。概要としては「心拍をはじめとした各種バイタルサインをインプット、光をアウトプットとし、色や明るさなどを動的に変化させる」ということで、想定する製品形状はいくつかあるものの、まず最初の目標がイヤリングとのことです。

さて、自己紹介とe-lamp.の概要をひとしきり語ると、彼女がおもむろにテーブルの上にさまざまなモノを出していきます。試作にあたり秋月電子で買ってきたという部品や、なぜかガシャポンのカプセルのようなものも。しかし「これくらいのサイズに収めないといけないかと思いまして」と訊き納得。イヤリングですから、あまりにゴツいと身に着けてもらえません。
それで、小型バッテリーとLED、リード線などから構成されたプロトらしきものがあったのですが、「どうもはんだ付けに失敗してしまったようで、動かないんです…」と悔しそう。

 

Leafonyの概要、使用するリーフの説明

そこで、この度後述のLeafony解説本の執筆にも携わった図研 EL開発部の長谷川から、打ち合わせまでになんとか「Leafonyで光るプロトを!」と突貫で行ってきた成果を、Leafonyの概説とともに紹介することになりました。
まず前段として、山本さんがe-lamp.公式サイトでも紹介している「Seeeduino XIAOを用いたプロト」を再現するところから。ですが、これはすんなりできたということで、スライド1枚で終了。間髪入れずにLeafonyで同一機能を実現した旨も紹介しました。

 

Seeeduino XIAOを用いた試作品(左)と、Leafonyを用いて同一機能を実現したもの(右)

Seeeduino XIAOを用いた試作品(左)と、Leafonyを用いて同一機能を実現したもの(右)

実にあっさりとフィジビリティが確認できてしまったわけですが、これはいうなれば「プロトのプロト」であり、この段階でいろいろ試した上で本当のプロトに進むことになるので、Leafonyの特長やできることなどを説明していきます。まずは、今回図研から貸出をする「Leafony Basic Kit」のラインアップと、e-lamp.の機能を実現するためにそれを使う/使わないという話。まず電源として使うためCR2032電池用のリーフ、次にMCUリーフ。そしてMCUへの書き込みを行うためのUSBリーフですが、これは書き込みが済んだら外してしまえるので、厚みを抑えることができます。最後に各種素子などとの接続用に29pinリーフで、直接はんだ付けもできるのですが、山本さんがはんだ付けは得意でないとの事前情報により、超小型のブレットボードをアタッチした形でお渡しすることになりました。

 

今回山本さんに貸出した Leafony Basic Kit と、e-lamp.機能実現のために使用するリーフの一覧

今回山本さんに貸出した Leafony Basic Kit と、e-lamp.機能実現のために使用するリーフの一覧

 

超小型のLeafonyだからこそ実現できたe-lamp.のプロト

さて、Leafonyにインプットとなるバイタルセンサ、そしてアウトプットとなる3色のLED素子が刺さった状態まで短時間で組み上がったので、「まずはLチカさせてみましょう」と長谷川。事前想定通りに接続されているので、これはなんなくクリア。バイタルセンサに触れるとLEDが点灯するというごくシンプルな仕組みですが、先般はんだで失敗したとのことで点かなかったので、「あっ、光った!」と素直に喜んでくれる山本さん。 次に、プログラムしてある内容、具体的にはスレッショルドを変更することで、光るLEDが変わるかどうかを見てみます。その場でバイタルデータを自在に変化させられる人間はいないでしょうから、閾値の方を変えてみて、用意した3つのLEDが光ることを確認するわけです(最終的にはマルチカラーLEDを使うかもしれませんが)。こちらも問題ありませんでした。

 

スケッチの内容と配線の様子(右上)、バイタルセンサに触れるとPC上でグラフ表示される様子(左下)

スケッチの内容と配線の様子(右上)、バイタルセンサに触れるとPC上でグラフ表示される様子(左下)

ここで私の中に素朴な疑問が浮かびます。インプットとなるバイタルセンサは、一体何を読み取っているのでしょう。「心拍スピードですか?」と山本さんに訊いてみたところ、「正確には『脈波』ですね」との回答。血液の赤色に緑色の光を照射することで、血流量を測ることができるのだそうです。
その脈の様子はUSB経由でPCに取り込むことができ、リアルタイムでグラフとして観ることができるのです。「いやぁ、すごくきれいに繰り返されてますねぇ」というと、その時センサをつまんでいた長谷川が「そりゃぁ平常心だから」と(笑)。なるほど、ドキドキするとこれが乱れてしまったりするわけですね。

 

e-lamp.の量産化、またその他のプロダクトの実現に向けて

結局この後、直径30mmのカプセルの中にLeafonyを無理矢理入れてみようとしたのですが、割れてしまいそうだったので宿題ということに(後述)。ここからは山本さんに、e-lamp.の量産化までのプランや、そこから発展させる別プロダクトの構想などを伺いました。

「小さいとか、かわいいとかに対するニーズは確実にありますよね。そうした小さいものを愛でる文化っていうのは日本発祥で、しかもそのための技術は日本のお家芸だと思うんです。だから、イヤリングを取っ掛かりとして、いろんなものを創っていきたいと思っています」と語る山本さん。ここに至るまでのさまざまな人からのヒアリングで、彼女の目指す「ときめき」にまつわるプロダクトが、「ライブエンターテイメント」と「恋愛エンターテイメント」の2つに上手くマッチするのでは、との手応えを感じているそうです。
前者の例として、「自分のときめきを、『推し』の人に伝えられるライブグッズ」が挙がりました(ちなみにこの光るスティックには、「サイリウム」や「ペンライト」など複数の呼称があるようです)。実は今でも既に、客席のオーディエンスが持つスティックの色を主催者側からコントロールする技術は実用化されているらしいのですが、各人の想いがそれぞれのスティックに反映されるというのは、持つ人にとっては嬉しいのではないでしょうか。
また、後者の例として「マルチカラーLEDを2つ仕込んだものを創って、それを自分と好きな相手とでお互い持つとします。LEDのうち1つは自分の心拍、もう1つは共有相手の心拍を反映させられたら面白いんじゃないかなと」と語ってくれました(相手の心拍データを取得するにあたり、なんらかの通信技術が必要になりますが、そのための手法はいくつかあります)。

 

e-lamp.の実際の着用イメージ

e-lamp.の実際の着用イメージ(講談社『with』2021年7月号に掲載)

ただ、どんなプロダクトにしてもやはり量産化までにはいくつか越えなければいけない壁があり、まずはコストです。プロトを10個なり100個なり作るのであれば、Leafonyなり、また別の機会にご紹介しようと思いますが、Club-Z連載でもおなじみのFUJI社製のFPM-Trinityなりを用いるという手法が考えられます。しかし、手頃な価格で販売するためには「万」の単位で作ることにより単価を下げる必要があり、例えばe-lamp.をはじめ身に着けるものとなると、デザイン性なども勘案してフレキ基板をそうした単位で手配するための方法を考えなければなりません。
また、いわゆるマーケティングであったり、消費者の倫理観の醸成といった意味でも、プロトの完成から最低でも数ヶ月は実証実験が必要であると、山本さんは考えているそうです。
「実証実験の結果を見て、そのままの方向性で行くか、別のプロダクトに進むかといったことは考えなければいけないでしょうし、また量産化の前に一度はクラウドファンディングが必要だと思っています」と語る様子を見て、夢を大きく自由に持ちながらも、視点はやはり経営者のものだなと感じました。

時間が来てしまったのでこの日はここまでとなりましたが、ひとまず暗礁に乗り上げていたe-lamp.を、製品化に向けて再び動かすところまではお手伝いできたようです。実はこれと並行し、前述のFPM-Trinityとのコラボレーション企画も進んでいるそうで、私たちがe-lamp.を手にする日はそう遠くないのではないかと期待します。山本さんの今後のご活躍を、図研は応援していきます。

 

取材後、Leafony Basic Kitとともに

取材後、Leafony Basic Kitとともに

 

「e-lamp.のプロトを創った男」長谷川 清久の苦労よもやま話山本さんの来社までに光るプロトを創れたのはよかったものの、直径30mmのケースに収められなかったことがどうにも悔しかったので、なんとかしたいと。PoCの醍醐味は、暫定でもよいので、ゴールをイメージできるものを短時間で仕上げること。自宅にある材料と工具でできることはないか…と考えた。
29ピンリーフに部品実装したものを詰め込むには、部品点数を減らさないと…。先般編集に携わった「Leafony解説本」の中にヒントがいくつかあった。LEDは抵抗入りのものを使う。こんなこともあろうかと、先日スイッチサイエンスで注文したものが役に立ちそう。RGB入りのLEDも注文しておこう(ポチッっと)。削るといっても、自宅にある鰹節を削るカンナは使えないし、木工用のやすりは目が粗くて…。カメラや時計をメンテするための工具の中に……あった! まずは電動のミニルーターから。…が、まったく削れない。では、かなり小さいけどやすりで……意外と大丈夫そう。いける。まずはコネクタ部分のプラスチックを。このコネクタを設計してくれたMさんの顔が浮かぶ(ごめんなさい)。ある程度丸くなったところで一旦保留。おっ、いい感じに半球の中にLeafonyが沈み込んでいく。あと2割くらい沈めばOK。(しかしこの2割に苦しむことを知るのはずっとあとのこと)

次は気分を変えて、上側に乗る29ピンを工作。RGBのLEDがいい感じに配置されるように、回路図を変更して、スケッチも修正する。ブレットボードでのテストもOK。LEDのリードを上手いこと曲げ、片側を裏面ではんだ付け。基板間の高さ制限は約2mmなので、すぐ下のマイコンリーフの部品配置を見ながら、裏側に突起がほぼ出ないようにニッパでリード線を切り取る。試作品なので、リード部のフィレットによるはんだ付け強度などは勘案せず。そして反対方向をGNDへ。この29ピンリーフ、欠点はGNDが1ピンしかないこと。今回は4ピンがGND。正規のGNDの他に使える場所を探すと、リザーブ用のピンを発見。しかもGNDピンに近い。これを使って空中配線をしようと方針を決め、はんだ付けを実施。もう20年くらい前のはんだごてで不安だったが、がんばってなんとかOK。こちらも20年以上前のテスタを使ってショートチェックOK。

そして続いて29ピンリーフの角を削ってみる。意外とサクサク削れるけど、これでは半球に収まらない。が、これ以上削るとパターンが削れてしまう。削れるのはいいけど、ショートしたら最悪。ここは基板設計30年。CADデータを見ながら無難に削ろうと、CR-8000でLeafonyの設計データを開く。ヨシ、基板端は全部GND。仮にパターンが層間でショートしてもOK。ここまで基板端にGND入れなくても(空きエリアはGNDで埋めろって言わないで欲しい…IoT機器では笑)。

大雑把ではあるけど、何となくいい感じにLeafonyが球形に収まりそうな丸みを帯びてきた。いざ、ケースイン。んー、80%くらい収まり、ケースはパカッとハマらないけど、テープで留めたらそれなりに入っている感じに見える。ここで終わる人が半分くらいいるのかもしれないけど、エンジニアとしてはここでは終われない。ひたすら削り、ケースに入れてみる。まだまだ・・・。そして95%くらい入った時、バリっ!!あっ、ケースにヒビが…。
ちなみにあまり気にせずはんだ付けしたLEDの天頂がケースと干渉して少し寝かすことになったのはナイショ(小声)。しかし、少し浮いていたので寝かせられたのが功を奏した感じ。完全に低背で実装していたら寝かせられなかった…という格闘を何時間か継続し、何とかケースに収まった時の「ときめき」の大きさは…計り知れない。

 

基礎から応用まできっちり! 『Leafony解説本』が完成

長谷川が執筆・校正に携わった、その名もズバリ『Leafony解説本』がこの度完成しました。
Leafonyをモノづくりの授業での教材として活用する学校での利用も念頭に置かれているため、最初の一歩から応用までしっかりフォローしています。これからLeafonyを始めようとする方は、ぜひ手許に置いて活用してください。
購入希望の方は、以下のメールアドレスにお問合せください。
Leafony.Book2021@gmail.com

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