第4回 3DプリンターでArduinoベースのIoTセンサーを作ろう

皆さんこんにちは。FUJIの富永です。今回は、電子デバイス製造用3Dプリンター「FPM-Trinity」によるIoT向けオープンプラットフォームのArduinoマイコン「Leafony」の製造実証について、情報をアップデートします。第2回記事で図研の長谷川さんからCR-8000を使ったLeafonyの3D設計についてお話がありましたが、その設計データをFPM-Trinityに出力して製造した結果です。
また後半では、名古屋市工業研究所様のスタートアップ支援拠点「Nagoya Musubu Tech Lab.」との連携も紹介します。スタートアップやメーカの方々のアジャイル型の開発や短期間PoCの支援の一環として、FPM-Trinityをご活用いただく取り組みです。

 

FPM-Trinityとは(おさらい)

FPM-Trinityは、回路印刷、部品実装、3Dプリンターの3機能を備えた、まさに三位一体(=Trinity)の革新的な装置です。FPM-Trinityでは、インクジェット印刷とUV露光で高耐熱のアクリル樹脂を造形し、その過程で銀ナノ粒子をインクジェットで印刷し焼結することで電子回路を形成します。その繰り返しで多層のビルドアップも可能で、全層の回路とレジスト層の形成後には導電性の接着剤バンプを印刷し、当社の実装機技術による高精度の部品実装を行います。
すべての工程がデジタルデータでのインプットなので、露光マスクや製造用治工具類は一切不要。少量多品種、カスタム品の電子モジュール製造を1台の装置で実現します。また、3Dプリンターの特徴を生かした立体的な電子モジュールも作ることができるのです。
一品モノのPCB製造や、指に装着できるセンサーデバイス、電動義手用のセンサーモジュール、特殊形状のLEDボードなど、応用用途は多岐に亘ります。

 

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CR-8000を活用したLeafonyの設計

Club-Z「指先にのる小さなデバイスでIoTを始めよう!」の連載でもおなじみですが、Leafony はIoT向けオープンイノベーション・プラットフォームです。この公開済みの回路図を、CR-8000を活用してFPM-Trinityの製造プロセスルールに準拠した3Dデザインで実現しています。構成はマイコンリーフ、USB電源リーフ、BLE通信リーフ、センサーリーフの4つ。この4つのリーフがLeafonyバスと呼ばれるコネクタで上下接続されている状況ですが、Design Forceのマルチボード設計環境でシステム全体のネットを検証し、エレメカ連携設計の詳細形状部品の表示を使って、上下リーフ間のクリアランスチェックを行います。3Dの筐体形状を持たせたまま面付け配置設計をして、3Dエクスポート機能を使って、FPM-Trinity向けに最適化されたデータ出力をして設計が完了します。
設計にかかった時間は、マイコンリーフが20時間、USB電源リーフが16時間、BLE通信リーフとセンサーリーフがそれぞれ8時間でした。FPM-Trinity側では3Dデータを印刷解像度と造形層のピッチに従ってスライスしたラスターデータに変換し、製造へと進みます。

 

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FPM-TrinityでのLeafonyの製造

今回は4種のリーフを2セット分レイアウトし、製造を行いました。全リーフとも回路層数は4層で、部品はF面の実装。Leafonyバスの接点電極は銀ペースト印刷で形成しました。4種の一括製造にかかった時間は合計48時間。「意外と長いな~」と感じる方が多いかもしれませんが、これは試作機での数字。現在開発を進めている量産機では「一晩」で製造が完了できる製造タクトを狙っていますので、ここからの改善にご期待ください。
製造後のリーフはLeafonyバスを介して組付けることで電気的に接続されます。Design Forceのマルチボード設計環境でのシステム全体のネットチェック、エレメカ連携設計の詳細形状部品の表示を使って上下リーフ間のクリアランスチェックを行っていますので、組付け後の干渉や接続異常はまったくありませんでした。Arduinoスケッチのブートローダーを書き込み動作させたところ、各種センシング情報をBluetooth通信によりスマートフォンでキャッチすることができました。つまり「ArduinoマイコンベースのIoTハードウェアを3Dプリンターで作れてしまう」ということが実証できたわけです。

 

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今後期待される展開

3Dプリンターの仕組みを活用したデジタルマニュファクチャリングは、多くの可能性を持った工法です。製造物単体の特徴だけでなく開発を加速化するためのツールとしての期待や、さらには新たなビジネスモデルとしての展開も考えることができます。

① オンデマンドでカスタムIoTハードが作れる
デジタルプリンティングなのでガラスマスクやメタルマスクが一切不要。ですので少量カスタム品でもイニシャルコストがかからず、気軽にカスタム基板を手に入れることができます。Leafonyプラットフォームの利点は、マイコンや通信部分は汎用とし、センサー部分だけカスタムするといった対応の柔軟性なのですが、FPM-Trinityと組み合わせることによってその利点がさらに強くなります。

② 目的用途や設置場所に合った特異的な形状で作れる
FPM-Trinityの重要な特徴は形状の自由性です。円形、ハート形、リング状など自由な形状での筐体成型が可能です。目的用途に合った形状にマイコンを仕立てることができるので、設置場所に協調した形状にするとか、目的のセンシング場所にぴったり合うセンサー配置を実現するなど、従来+αのユーザービリティを提供することができます。

③ 製造物だけでなく設計データでのビジネスに展開できる
3DプリンターはCopy Exactlyの製造装置です。データが共通であればどこでも同じ品質の製造物ができます。そのためコロナ禍でフェイスマスクやベンチレーター製造に活用されたことも記憶に新しいと思います。お客様から受け取ったデータを造形出力するサービスビューロがかなり一般化されてきましたし、DMM.Makeさんのように設計データを出展販売できる興味深いビジネスモデルも登場しました。電子基板も製品でなくデータを売る、という日が来るかもしれません。

FUJIでは図研様との協力関係の元、試作サービスを展開しています。多くの方々にこのFPM-Trinityをご活用いただけるサービスです。エレクトロニクス系のメーカ様だけでなく、設計~製造にお困りの製品デザイナー、スタートアップの方々にもお役に立てていただきたいと考えています。
そういう想いもあり、今年11月から名古屋市工業研究所様が開設したスタートアップ支援拠点「Nagoya Musubu Tech Lab.」とも共同体制を構築しました。後半はこの名古屋市工業研究所(以後、名市工研)様の活動について少し紹介させてください。

 

名古屋市が主導するモノづくり拠点「Nagoya Musubu Tech Lab」

Nagoya Musubu

Club-Z編集局です。富永様からの紹介を受けて、名市工研のご担当者とのオンライン取材が実現しました。ちなみに名市工研とは、中小企業の方々の生産技術の向上、研究開発などを積極的に支援する業務を行っている機関でして、さすがはモノづくりの盛んな中京地区、前身となる名古屋市工業指導所の歴史は昭和12年から始まっています。

まず、このNagoya Musubu Tech Lab(以後、Tech Lab)の概要ですが、技術系スタートアップを始めていく企業に使ってもらいたい、また地域の中小企業の新製品・新技術の開発にも活用してもらいたいというコンセプトで、まさに今秋ローンチしたばかり。3Dプリンターを含む充実した工作機械類を用意することで、試作のスピードアップを図りたいということと、年間約2,300の中小企業が利用するという名市工研が出会いの場として機能することで、技術・人的交流により試作を加速させるという、二つの狙いを持っています。

 

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本来公的機関である名市工研では、民間企業同士を結ぶという活動はやってこなかったそうですが、今回は最初からそれを目的として謳い、参加企業が自分たちの提供できる、または求めている技術を登録することで、スムースな結び付きを期待しています。
また、ある程度目鼻が付き、もっと本格的な試作なり信頼性評価なりということになれば、名市工研本体の設備を使ってもらうことができる点も、大きなウリとなっています。

ちなみにコロナ禍の中で、さまざまなことがオンラインでやられるようになってきましたが、名市工研ではオンライン対応や宅配での依頼などでないface-to-faceを大事にしているとのことです。というのも、実際にモノを見ながら、名市工研に在籍する各種プロフェッショナルと対話することで、Tech Labの効果は最大限に発揮されるものとの考えているためだそうです。

 

Club-Z読者へのアピール:こんなふうに使ってほしい

せっかくですので、やはり最も厚い読者層が設計者となるClub-Z向けのアピールと、今回FUJI様と組んでFPM-Trinityが利用できるようにしたいきさつを訊いてみました。「昨今、カタチを作るだけであればどこででもできるのでしょうが、やはり機能が入らなければ製品としての命が吹き込まれません。その意味で、FPM-Trinityはとても興味深い製品だと思ったというのが、FUJI様とのお付き合いのきっかけです。それで設計者の皆さんには、『造型なり加工なりをTech Labの機材でやってもらって、電子部品を組み込むところがFPM-Trinity。そして各種信頼性評価もLabでやってもらう、いわばワンストップでの試作』というのが、響くのではないかと。また、公的機関ですので、やはり民間と比べて安いというのも魅力かと思います」。

 

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ちなみに、セットメーカ様の中で通常は回路設計のみを行って、基板設計を外部に委託しているといった企業も多いと思いますが、例えば「この新製品企画は早めに目鼻を付けたい」といった場合などに、Tech Labに相談し、FPM-Trinityを使って機能込みでの試作品を作ってしまう、といった活用事例が出てきてくれると嬉しいですね、とのことでした。読者の皆様、いかがでしょうか?

今後FPM-Trinity、Nagoya Musubu Tech Labの活用事例をClub-Zでご紹介できることを、楽しみにしたいと思います。

 【名古屋市工業研究所のWebサイト】
   https://www.nmiri.city.nagoya.jp/ 

 【Nagoya Musubu Tech LabのWebサイト】
   https://www.nmiri.city.nagoya.jp/musubu_lab/ 

 
 

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