第3回 2台の3Dプリンターによる工法で、「機能」も作り込む
2020年09月03日皆さんこんにちは、デジタルファクトリー株式会社の松澤です。先日秋葉原から生配信し、多くの方にご視聴いただいたWebinarの会場で、Club-Z編集長より本連載への寄稿のご相談があり、当社と3Dプリンターの概要、そして株式会社FUJI様と共同検証を行った「FPM-Trinity × 3Dプリンター」というハイブリッドアディティブ工法の一例をご案内することになりました。
最初に、自身と会社について簡単にご紹介します。私は、2000年代前半から海外製3Dプリンターの立上げ事業に加わって以降、「3Dデータ と モノづくり」を軸に、製造業のお客様を中心に業務支援を行ってきました。
そして、私の所属するデジタルファクトリー株式会社は、3Dプリンター販売を中心としたシステムセールス、設計、開発を事業としています。設計/開発部門では、日常的に3D設計と3Dプリンター出力を繰り返し(私たちはこれを「3D設計と出力のループ」と呼んでいます)、より確かな3D設計データを作り上げており、セールス部門はそこで得られたノウハウなどを一緒にお客様に提供します。単にシステムを販売するだけではなく、3Dデータ作成、3Dプリンター出力、システムメンテナンスなど、3Dプリンター運用に関わるさまざまなソリューションとノウハウの提供を実現し、他にはない企業価値構築を目指しています。
3Dプリンターの種類、用途など
ではまず、「よく聞くけれど、その実あまり詳しくは知らない」という読者の方もいらっしゃると思いますので、3Dプリンターの世界自体を概説しましょう。
2013年頃に興ったブームによって、3Dプリンターは広く認知されました。現在コンシューマ向けの機種は家電量販店でも見ることができます。ABSなどの熱可塑性樹脂を溶かして積層するタイプは数万円から購入できるようになり、よりクオリティの高い造形ができる光造形タイプも個人での購入に手が届く価格帯の製品が登場するなど、選択肢が増えてきています。
一方、産業用途の樹脂系3Dプリンターも、材料、クオリティ向上、大型化、そして高効率化と進化を遂げています。金属3Dプリンターはコンシューマ向けとまではいきませんが、オペレーションが比較的容易なシステムが開発されたり、新たな方式が登場したりと活発になっています。
元々3Dプリンターは、RP装置とも呼ばれていました。RPとはラピッドプロトタイプの略称です。この名前が示すように、製品開発フローの中で試作品を早く作ること(ラピッドプロトタイピング)が3Dプリンターの主な用途でしたが、現在では高機能化や、多品種少量生産のニーズを背景とし、3Dプリンターで直接的に部品製造を目指す取組みや、そういった事例が海外を中心に増えてきています。まだ国内の事例は少ないのですが、当社Webサイトでは私たちが国内のお客様へ実施した、3Dプリンターでの少量生産/カスタマイズ製造支援事例を紹介していますので、ご関心を持たれた方はこちらのリンクをご覧ください。
近年では、3Dプリンターで製造することが一つの製法と捉えられ、アディティブマニュファクチュアチャリング(付加製造:略称AM)と呼ばれるようになりました。そして、単に製法を置き換えるのではなく、3Dプリンターで製造することを意識した設計手法DfAM(ディーファム:Design for Additive Manufacturing)を取り入れ、時間もコストも削減したAM工法の確立が求められてきています。
デジタルファクトリーでFPM-Trinityを扱うことになった背景
当社は、「最先端のデジタル技術とアナログ技術、ヒューマンスキルを融合した『新しいモノづくりの手法』を提案する」ことを活動の指針としています。こうした指針の下、設計/開発業務の中で、企画早期のコンセプトアイテムや一品物などの製作相談を受けることが多くあります。シンプルな内容から、機構や電気的機能を含む複雑な内容まで多岐に亘ります。今後はさらに小型化/高機能化の案件が増えていくことを予測し、当社ではAM工法に後加工を施すことで電気機能化を付与する検証を行った経緯があります。そういった検証や調査の中で出会ったのがFPM-trinityなのです。
FPM-Trinityは我々が目指す小ロット生産、カスタマイズ、価値創生をお客様にご提案できるソリューションの一つであると捉えています。
想定しているFPM-Trinityの活用方法
製品開発において、3Dプリンターはアイデアに「形」を与えることで開発の加速化を実現させました。FPM-Trinityはアイデアに対し「形」に加え「機能」を与えることで、さらなる加速化と具体的な検証を可能とし、本格的なマーケティング利用を早期に行うことができるなど、加速化だけではない広がりを持たせることができます。また、小ロット生産としての利用では、製品の高付加価値化などの違いを生み出すことができます。
詳細はお伝えできないのですが、意匠性の高いプロダクトに電子機能を持たせる提案を示したところ、高い関心を寄せていただいている事案があります。省スペースにおける電子機能化は市場で求められており、当社としてもFPM-Trinityを用いた「デジタルデータを活用した新しいモノづくり」をお客様と一緒にチャレンジしていきたいと考えています。
FPM-Trinityはまだ新しい技術であり、さらなる検証が必要な段階です。その一つとして、株式会社FUJI様と共同検証を行った、ハイブリッドアディティブ工法を次にご紹介します。
「ハイブリッドアディティブ工法」について
AMは数ある製法の中の一つであることは述べてきました。そして、どの製法もそれ単独で完結することはなく、AMも同じことが言えるかと思います。
さて、FPM-Trinityの特徴は、なんといっても電子機能をすべてデジタルで製造できる点です。一方、他の3Dプリンターは、形状、素材、色の自由、3Dプリンターでしか造形できない表現といった特徴があります。ユーザーはその特性を理解して、どの3Dプリンターを使うのかを選択します。そこでFPM-TrinityもAM製法の一つと捉え、他の3Dプリンターと融合させることが重要なのではと考えました。
FPM-Trinityだけで材料、形状などの自由度を持たせようと思うと、非効率的になる可能性があります。そこでFPM-Trinityは電子機能を作ることに特化させ、他の3Dプリンターが得意な部分と組み合わせることで、多様性を持たせることができ、トータルでクオリティ、コスト、スピードの最短化を目指すことができるようになるのではと考えます。それがハイブリッドアディティブ工法なのです。
実験段階の工法ではありますが、アディティブ技術同士の組み合わせを追求することで、エレクトロニクス機能を内包しつつ、色や柔らかさ、サイズの自由度などをもった構造体を製造することが可能になります。
さいごに
当社内だけではなく、当社のお客様からもFPM-Trinityへ期待する声が挙がっています。デジタルデータを活用した3Dプリンター+FPM-Trinityのコラボレーションは、既成概念にとらわれないAMを活用した新しい製法で、大量生産型ではなく顧客ニーズ、市場ニーズに合った、タイムリー且つ小ロット、オンデマンド生産のモノづくりを可能とします。成長が見込める、新たな価値創生のシステムとして期待できるソリューションであると考えています。
当社はこのFPM-Trinityの活用などをトリガーに、将来的には装置販売、試作、量産サービス提供を行い、お客様からのさまざまな要望に応えられるトータルモノづくり企業を目指します。