第2回 MCPC ナノコン応用推進WGの取り組み~ハッカソン開催とハンドブック発行~
2019年11月28日
先月より、誰もが簡単にアイデアを形にできるIoTプラットフォームとして注目を集める「トリリオンノード・エンジン」をテーマにした新連載が始まりました。今月はトリリオンノード・エンジンのような超小型、バッテリー駆動、モジュール化して容易に取り扱えるデバイスを「ナノコン」と定義し、その用途開発、普及促進活動を行っているモバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC) 技術委員会 ナノコン応用推進ワーキンググループ(以降、WG)の取り組みをご紹介します。
MCPCとナノコン応用推進WGについて
モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)は、ワイヤレスデータ通信とコンピューティングシステム(モバイルシステム)の普及を促進するために、1997年に日本を代表する移動体通信会社、コンピューターハードウェア/ソフトウェアメーカ、携帯電話/PHSメーカ、システムインテグレータにより組織化された団体です。現在では、モバイル利活用のIoT/AI市場の発展・拡大実現に向かって活動しており、そのための技術課題への対応、運用課題の調査・研究、開発の推進、標準化、相互接続性検証、普及啓発活動、人材育成などを行っています。さらには、米国姉妹組織のWTA(Wireless Technologies Association)、USB-IF、Bluetooth SIG、IEEEなどと連携を図りながら、モバイル利活用のIoT/AIソリューション市場の形成拡大と、利用環境の高度化に努めています。2019年11月現在の加盟企業・団体は190社となっています。
MCPCでは、様々なデバイスがインターネットに接続されたいわゆるIoTの世界を普及させるには従来のマイコンよりも小型、低消費電力、かつ容易にインターネットに接続されるコンピュータが必要だと考えていました。また、誰でもIoTビジネスに参画できることとサービスビジネスの開発サイクルの短縮化が必要とされるため、容易に技術/ビジネスの実証実験を行うことが求められるようになっていると考えていました。
そうしたところ、2016年の Zuken Innovation Worldにて東京大学の桜井貴康名誉教授が「IoTのオープンイノベーション・プラットフォーム」としてトリリオンノード・エンジンをご紹介し、同年、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託事業として「トリリオンノード・エンジン」プロジェクトが発足され、東京大学と株式会社図研などの産学連携で研究開発が進められていました。
MCPCでは、このトリリオンノード・エンジンのような機器がIoTの世界の普及促進に不可欠なデバイスであると考え、2018年4月に技術委員会の直下にナノコン応用推進WGを立ち上げ、ナノコンの用途開発、普及促進活動をスタートさせました。本WGでは、トリリオンノード・エンジンをナノコンの代表例として位置付けています。現在では約20社がナノコン応用推進WGメンバーとして精力的に活動を行っています。
MCPCのWebサイト: http://www.mcpc-jp.org/
ナノコン応用推進WGの活動① ~ ナノコン応用ハッカソン ~
前述のナノコン応用推進WGでは、これまでにナノコンに関する勉強会を3回開催し、東京大学・桜井名誉教授、奈良先端科学技術大学・荒川准教授(現:九州大学 教授)、東京大学・森学術支援専門職員にご講演をいただくなど、ナノコンの普及促進を行ってきました。
また、2019年8月31日と9月20日の2日間にわたって、「第1回ナノコン応用ハッカソン」を開催し、理系エンジニアの大学生だけでなく、美大・芸大の大学生など様々な分野の方々に参加いただきました。ハッカソンの前半は、株式会社ゼロワンブースターの合田共同代表によるビジネス講義を受け、”我々が起こしたいのはイノベーション”、”新しい軸の事業は組み合わせ”、”事業はチームで行う(本当に価値があるのはアイデアよりチーム)”、”起業で重要になる4要素”などを学んでからビジネスアイデアを出し合い、膨らませることから始めました。一般的なハッカソンと違うアプローチをしたため戸惑いを感じる学生も多いだろうと思っていましたが、終了後のアンケートでは「学校で学べないことが学べた」、「非常に楽しく、ためになる講義が受けられた。リーダーシップの話が興味深かった」、「これまでハッカソンに参加しても技術がメインでビジネスにつなげる事で考えることがなかった。今回は、ビジネスの考えが知れてとても面白かった」など、大変好評でした。
そして、ハッカソンの後半で、参加者のビジネスアイデアがトリリオンノード・エンジンで実装されていきます(図2)。具体的には、高齢化社会を見据えた「簡易スマートハウス化のための拡張見守りデバイス」に活用するアイデア、日常生活の中で継続的な健康促進を支援するための「健康と美の土台である”柔軟”を改善」するシステムのセンサーデバイスに活用するアイデア、そして、「ペットをより家族へ」と近づけるためにペットの感情をセンシングするデバイスに活用するアイデアが、トリリオンノード・エンジンで実装されました(図3)。システムとして最終形まで完成できなかったチームもありましたが、その開発スピードの速さという点では、まさにトリリオンノード・エンジンが”アイデアをすぐに形にできるプラットフォーム”としての役割を十分に果たしていることを示すことができたハッカソンとなりました。
~トリリオンノード・エンジンに興味津々~
~東京大学・桜井名誉教授、MCPC・畑口幹事長、(株)ゼロワンブースター・合田共同代表を囲んでの表彰式~
現在、第2回ナノコン応用ハッカソンを2020年1月に開催すべく準備を行っています。今年度のテーマは、”指先にのる小さなデバイスでドローン、ロボホンを自在に操ろう”です。トリリオンノード・エンジンとドローン/ロボホンを連携させた新しいサービスが創出されると思うと、ワクワクして、今からとっても楽しみです!
ナノコン応用推進WGの活動② ~ナノコン ハンドブック発行~
ナノコン応用推進WGでは、ナノコンをより多くの方に知っていただくためにトリリオンノード・エンジンの解説と、トリリオンノード・エンジンを含むナノコンの活用事例をまとめたハンドブックを発行しました(図5)。トリリオンノード・エンジンを使った活用事例としては、慶応義塾大学 石黒研究室が3種類の抵抗変化型ガスセンサーの信号を読み取るアナログフロントエンドリーフを自主開発した”ナノワイヤガスセンサを用いたウェアラブル呼気検出デバイス”の事例や、富士通コネクテッドテクノロジーズ(株)がArduinoのモータシールドとLeafonyで工作キットのブルドーザーのモーター制御を行い、スマホを組み合わせて遠隔操作を実現した”工作キット ブルドーザーの遠隔操作”の事例を掲載しています。大変読みやすい無償のハンドブックになっていますので、ぜひ、手に取ってご覧いただきたいと思います。数に限りはありますが、大学生、高専生、専門学校生にも読んでいただきたいハンドブックですので、ご希望の方はMCPC事務局までご連絡ください(もちろん、企業に所属される方でも大歓迎です)。
ナノコン応用推進WGの活動③ ~メンバー企業の活動例~
東芝インフラシステムズ株式会社の取り組み
ナノコン応用推進WGのメンバー企業である東芝インフラシステムズ株式会社は、2019年度より国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)助成事業”トリリオンノード・エンジンの研究開発”のプロジェクトに株式会社図研とともに参画しました。
自社のカード・セキュリティシステム事業で培った指紋認証ICカード(BISCADETMカード)技術をトリリオンノード・エンジンに応用し、指紋センサーリーフやセキュアエレメントリーフを開発、既存リーフと組み合わせることでBLE対応指紋認証デバイス(BLE対応BISCADETMデバイス)を実現しました(図6)。BISCADETMカード/デバイスは、4桁のPINコードを入力する代わりに、指紋照合により本人であることを確認することができます。事前登録した指紋情報はカード/リーフ内の耐タンパ性の高いセキュアエレメントに格納されているため安全です。また、BLE対応BISCADETMデバイスは、BLE通信を介して指紋照合の結果をシステムに通知することもできます。セキュアエレメントリーフは、暗号鍵の保存、データの暗号化処理などにも利用できます。IoTの世界でもセキュリティの重要性が高まっていますので、東芝インフラシステムズ株式会社は、セキュアエレメントリーフを活用したセキュアIoTデバイスの実現や、指紋センサーリーフを活用した本人認証が必要なIoTシステムを実現していきたいと考えています。また、MCPCナノコン応用推進WGメンバーの一員として、ナノコンの用途開発、普及促進を推進していきます。
※ナノコンは、MCPCがライセンスしている商標です。
※Leafonyは、Leafony Systems社の商標です。
※BISCADEは、東芝インフラシステムズ株式会社の商標です。
※その他社名および商品名は、それぞれ各社の登録商標または商標です。