第9回:巨大工場内で「自走Leafony」が熱問題を解決?

この度、昨秋の Zuken Innovation World 2019 でご講演いただいた群馬大学大学院 理工学府 白石洋一 准教授(現在は定年され茂木研究室に所属)より「今、Leafonyを使った面白い研究をしてるんです」とご連絡をいただき、これだ!ということで、編集局一行は群馬県のとある工場へ赴き白石先生と合流。そこで我々が見たものは…。スーパーで見かけるおなじみのアレに、Leafonyが深く関わろうとしていたのです。

 

群馬大学大学院での各種研究テーマについて

さて、この現地取材に先立ち、編集局は白石先生の研究室とオンライン打ち合わせを実施しました。あちらはご多忙の中お時間を作っていただいた白石先生と茂木先生、研究室の学生さん数名、図研側は開発部門2名とヒルコです。最初に、現在群馬大学大学院のデジタル情報処理研究室内で対象としている、多岐にわたる研究テーマの全体像をご紹介いただきました。

 
白石先生とのオンライン打ち合わせの模様

図1.白石先生とのオンライン打ち合わせの模様

 

例えば、「制御」という大テーマに対し、「Model Based Design」という小テーマがあり、その中に電動化移動体連成シミュレーション、作業ロボット大型化、ロボットアームティーチングなどの個別課題、「群制御」の中に複数ドローンの協調飛行や作業ロボットの協調制御などがあり…といった感じで、中心から大テーマ、小テーマ、個別課題と放射状にマインドマップが描かれていたのです。
そして、個別課題毎にそれらを実際に形にしていくためのスポンサーが募集されていたり、すでにそれが決まってスポンサー企業とタッグを組んで動き始めていたりする旨が説明されました。

 

Leafony をAGVに搭載!?

ここで、今回の取材テーマについて概説されたのですが、それは後のお楽しみということで、まずはこの課題の解決のために制作されたというマシーンを紹介しましょう。この、月面探査機のミニチュアみたいなものがそれです。

 
Leafonyを搭載したAGV

図2.Leafonyを搭載したAGV

 

形状としてはごく小型のAGV(Automated guided vehicle、無人搬送車)なのですが、こちらはモノを運ぶのではなく、センサリーフを含んだLeafonyを搭載して工場内を移動させ、データを収集する用途なのだそうです。「自動測定デモ」というタイトルの動画を見せていただいたのですが、確かに車体から上方に垂直に伸びる棒に Leafony が固定されていること、そしてこれが低速で動いていることは判るものの、研究室内での挙動なので、イマイチ活用イメージ … 現場でバリバリ働いてる感がピンと来ません。それは、現地で見せてもらうことにしましょう。

 

なんと、それを工場で作ってるんですか!

8月某日、本社・中央研究所から車で北上すること数時間、群馬県沼田市に到着しました。いや、すんごく大きいんですけどここ! 一体どんな巨大なブツを作っているのでしょう。それで、私はメモ取りに専念しようかと思っていたんですが、中に入ると同行の開発メンバーは「展示会用にムービー撮るんで」と、ビデオカメラの準備をし始めるではありませんか。仕方なく、全貌を分かっていないヒルコがたどたどしく取材することに …。

工場内には、人の背丈を優に超える金属製のシャーシで組まれた棚のようなものがズラリ。その中に、プラスチック製のトレイに入った … なんといいますか、かなり大きなものがビッシリ。なので見たまんま「タケノコの里みたいですねぇ」と言ったら、今回ご対応いただいた、森産業株式会社の田村様から「いえ、シイタケです」との即答が。なんとこの広大な工場、シイタケの菌床を育てているんだそうです。というか、キノコってファクトリーで作ってるものなんですか! 原木からチョロチョロ生えているものかと…。すると「ご覧の菌床からニョキニョキ生えてくるんですよ」とすかさず田村様。なるほど、森産業さんは、キノコそのものではなくて、種菌や菌床などを作ってらっしゃるんですね。

 
ズラリと並んだシイタケの菌床

図3.ズラリと並んだシイタケの菌床

 

実はこのXR-1という菌床、以前森産業さんの研究所にいらした女性社員が、上司が「これはダメだな」と棄てようとした品種を、もったいない … と取っておいたものなんだそうです。その時は別の品種が世に出たのですが、その方が寿退社された後に上司が研究を再開し、製品化に漕ぎつけたんだとか。
従来、菌床からシイタケが生えてきて出荷できるようになるまで、150日から180日程度かかっていたものが、このXR-1ではなんと90日程度にまで短縮できたのだそうです。期間短縮できれば、同じスペースでの収穫量が上がるので、イコール収益が上がるわけです。これは大発明ですよね。なおこのXR-1、現在では日本で一番食べられているシイタケ品種になりました。

 

キノコにも熱問題が

そんな素晴らしい菌床がズラッと並んだこの工場内で、今私の目の前を走っているこの Leafonyを搭載したAGVは何をしようというのでしょう … との疑問を察したのか、すかさず「実は、菌が繁殖する時に熱が発生するんですよ」と田村様。熱ですか! やっぱり菌って生きてるんですねぇ。でも、熱とAGVが繋がらない …。すると田村様が説明してくれました。「熱は菌床の育成にはマイナスなんですよ。こういう置き方をしているんで、パレットの中央付近はどうしても空調が利きにくくなって、そうした場所にある菌床は生育状況が悪くなります」。なるほど、実は着いた時からどうも暗いなとは思っていたのですが、熱を抑える理由で通常時は消灯しているんだそうです(作業時:菌床の搬入出はフォークリフトを使って行うので、その時だけ点灯)。

 
フォークリフトによる菌床の移動

図4.フォークリフトによる菌床の移動

 

ちなみに、この熱問題への対応として、例えば熱伝導性能のよいパレット部材を採用したり、放熱構造を組み込んだりといった工夫(基板実装の現場で行われているような放熱技術の応用)も考えられるようなのですが、そうした施策はまだできておらず、今はこの Leafonyを搭載したAGVの活躍に期待されているそうです。具体的な内容は次章でご紹介します。

 

熱対策のための Leafony&AGV活用

熱がキノコによくないことは判ったのですが、とはいえまだAGVで何をしているのかはピンと来ていなかったので、ここからは白石先生に、工場内で行われていることについてご説明いただきました。「1台のAGVにつき3つ、床のすぐ上、1m、2mのそれぞれの高さでの温度、湿度、照度を取得できるように、リーフを設置してあるんですよ」。それくらいの粒度、つまり1mの距離毎に環境を把握しておく必要があるんですね。
各種データのセンシングは、各リーフから同じAGV上に設置してある Raspberry Pi(ラズパイ)へは Bluetoothで、そしてラズパイからサーバPCへは Wi-Fiで行われているとのこと。

なお、データの取得を Leafonyで行おうと決めたポイントは、「低消費電力」ではなく「超小型軽量」だそうです(電源はAGVに積めるので)。
さらに、Leafonyを巨大な熟成庫内に3次元的に固定して設置すると、それだけで一千個以上必要になり、また、菌床の搬入搬出にも障害となってしまいます。温度、湿度、照度の変化はそれほど急ではありませんので、Leafonyを載せたAGVがある速度で巡回すれば、効率的にデータの取得が可能になります。私が見たのは、まさにそのデータ取得の実証実験現場だったというわけです。

こうして取得したデータをどう活用しようとしているかというと、行く行くは「エアコンの制御」をしたいのだそうです。というのも、前述の通り菌床の搬入出はフォークリフトでやっているのですが、熱対策のための菌床の移動もやっていて、大変な工数がかかっているのです。もし、取得データを拠り所に自動でエアコンの調整ができれば、この手間をなくせるかも知れず、その恩恵は小さくありません。

なお、LeafonyよりもこのAGVの方にソソられてしまっている読者もいらっしゃるでしょうから、こちらの紹介もしておきましょう。サイズは縦横が40cm×30cm程度、車輪の直径が10cmで、重量は4kg強となっています。12V DCコアレスモータを使用し、最高速度は0.6m/s(意外と速い!)です。4輪駆動で、見てのとおりメカナムホイールを採用しているため、全方向への移動・旋回が可能で、これにより狭い通路にもスムースに入っていけるわけですね。こうしたAGVを、広い工場内に複数台走らせて、全域をカバーする計画だそうです。

 
メカナムホイールを使っているため、意外と武骨なAGV

図5.メカナムホイールを使っているため、意外と武骨なAGV

 

運転の仕様については、事前のティーチングに沿って動く運転と、自動運転、中継点なしの完全自動運転の3種類を想定していますが、現状ではティーチングに沿った運転になっています。自己位置の把握も、今は車輪の回転数による推定なのですが、やはりそれではズレが生じてきますので、今後は加速度センサやレーダなどを使っての推定を目指したいとのことです。

 

さいごに

これまで、本連載でもご紹介してきたように、研究会での事例発表や、学校での製品開発実習などで、Leafonyの活用例は見てきたのですが、実証実験段階ではありながらリアルな現場で稼働しているのは今回が初めてでした。これは、大学と企業との数ある共同プロジェクトの一つとのことなので、将来的に我々の生活の中で Leafonyが活躍する場面を自分の目で見る機会が出てくるのかも知れないな、と期待します。

さいごになりますが、白石先生、茂木先生と研究室の皆さん、そして森産業の田村様、取材へのご協力ありがとうございました。もうちょっとすると、「Leafony印(?)のシイタケ」をおいしくいただける機会があるかも知れませんね。

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