第1回 「流用設計、うまくいっていますか? - 設計の標準化・効率化・高品質化を実現 -」
2019年07月30日
こんにちは、Club-Z編集局のヒルコです。先月の読者アンケートで「ヒルコさんの出番をもっと多くしてほしい」という要望があったかなかったかはさておき、短期集中連載を担当することになりました。実は最近、お客様先での課題ヒアリングにお邪魔する機会がありまして、それに向けて何枚か展示用のパネルを描き起こしたのです。それで実際それをお客様にご覧いただいたところ、「あるある」「わかるわかる」といったお声が挙がったので、調子に乗って「記事にして、全国の読者様に『あるある』っていってもらおう!」と思い立ったのです。
パネルから記事へ、これぞまさに流用設計(?!)…というわけで第1回はこの流用設計をフィーチャーします。なお、読者アンケートで「設計関連情報の一元管理による、流用設計の効率化」を「以前からの課題」または「直近顕在化し今後の重要課題」と回答された方は実に7割を超えていました。
というわけで、まずはこちらをご覧ください。構想設計領域をご紹介するブースに掲出したパネルの1枚目です。
任意の製品開発にあたり、新規での設計よりも類似製品からの流用が効率的だったり、また最初からバリエーション設計が求められていたりするケースが少なからずあるかと思います。そうした際に、企画引き合いから試作量産までの各フェイズで、図中のエンジニアのようなさまざまな悩みを感じることはありませんか?(「あるある!」っていってください)
構想領域のブースで紹介した内容ではありますが、流用設計の可否による影響は、上流のみに留まらないことにあらためてお気づきの方もいらっしゃるかと思います。理想的な流用設計ができていないと、まず求める製品が然るべき条件(「Xヶ月以内に」「Y円以内で」など)に則って作れるのかどうかの検討自体が難しいですし、いざ流用での設計が決まっても、流用元の回路の設計意図が解らないと「はたしてこれを流用するのが効率的なのか」自信が持てません。また、流用により仮に期間短縮はできたとしても、部品共通化のご利益が十分でなければ、コストが想定以上に跳ね上がってしまうようなケースも考えられます。
そこで図研からご提案する「回路超流用」環境を簡潔に示したのが、2枚目のパネルです。超流用設計については何度もClub-Zで取り上げており、直近では昨年5月の「もっと知りたいその話:TECHNO-FRONTIER 2018編」で説明していますのでそちらもご覧いただくとして、ここでは「設計の標準化・効率化・高品質化を実現する『回路超流用』環境」の大まかなイメージを描いていただければ幸いです。
大きく3つのパートに分かれており、パネル内の上半分が、「1. 有用な回路ブロックを作るための回路設計環境」、左下が「2. 回路ブロック活用のために情報を集約するプラットフォーム」、そして右下が「3. 情報が集約された環境で実現できる、構想設計との密連携」を表しています。
まずは、「回路の超流用」ですから回路データです。「実績ある設計データ」作りのステップをざっと示すと、共有させたいブロックの選定、共通化のための一手間(推奨部品への差し替えなど)、活用のための各種ドキュメント(設計レポート、データシート、関連規格書など)の付加、使い勝手向上のための正規化、といった流れになります。ここでは、回路設計ツールとして CR-8000 Design Gatewayを示していますが、これは構想設計ツール System Plannerと密に連携し、マルチボードレイアウト設計までをスムースに行うため、また LTspiceをはじめとした各種検証環境との連携の点でもオススメということです。
次に右上、近年特に引き合いの多いサービスとして「電子部品のEOL情報活用」を載せることにしました。流用元の回路でEOL部品が使われてしまっていると見直しが必要となりますが、まずEOLやカタログ落ち情報を部門毎・個人毎に収集していて共有できていないと二度手間ですし、EOLの発覚が後工程になればなるほど手戻りやロスコストは大きくなります。また、当該部品が使われている機種の特定にも時間が掛かってしまう恐れがあります。というわけで、解決方法の一つとして
図研テックが提供している各種EOL関連サービスをご提案しています。
そして、Design Gatewayから切り出した回路ブロックを、標準部品や設計手法、検証結果などの各種「設計の裏付け」とともに管理すれば、効率化を最大限に研ぎ澄ます「超流用設計」が可能になるわけですが、大事なのはデータの保管場所ですよね。そこはやはり、電気設計業務に特化した PLMである DS-2を用いるのが最適解といえます(現在では DS-2はプラットフォーム名になっているため、システム名としては DS-CR、また短期構築可能なパッケージとして DS-2 Expressoがあります)。
左下の図中に書かれている通り、回路ブロックの活用履歴を蓄積でき、例えば部品から使用製品を逆展開して周辺回路を流用するようなことができるのです。また、EOLなどをトリガーとした使用部品変更も、対象部品表を自動で抽出して、一括実行することができます。
そして最後に右下、構想設計を専用ツール System Plannerで行い、回路設計にスムースに引き継ぐことによるメリットですね。DS-2内部の、部材費、調達推奨、代替部品などの情報が入った部品DB、そして標準部品、各種技術文書、検証結果、変更履歴、設計制約などが入った回路ブロックDB。それらと連携した System Plannerでブロック図を描き、そのまま Design Gatewayで詳細回路設計を行うことで、見積の精度も設計の品質も向上します。構想段階で Excelや PowerPoint/Visioなどを使っている環境では、ツール間連携がありませんから、同じような情報を何度も入力したり、意図/根拠が不明な設計になってしまったりということが起こりがちです。構想設計から回路設計へのスムースな流れは、各種情報が十分に整理・集約できる環境で、データが連動するからこそ実現できるのです。
なお、ここまで良いことずくめでしたが、注意点もご案内しておきます。それは、SI/EMC対策部品などをレイアウト設計時に基板上に搭載し、それらを反映した最終回路図の場合には、そこまで効率的な流用はできないケースもあるということです。
例えば、流用先の基板の層数やサイズなどが異なる場合には、伝送線路の前提条件が異なりますので、流用元の対策部品の定数の再計算(要/不要含め)が必要となります。ですから、「基本的な回路は流用し効率化を図るが、レイアウト設計後に反映されたノイズ対策部品などは流用先の回路図であらためてシミュレーションなどによる再設計を行う」、というのが堅実な進め方かと思われます。
さあ、駆け足ではありますが、図研による回路「超流用」環境をご紹介しました。ここまで読んで「こうなったらいいなぁ」と思った読者の皆さん、ぜひご相談ください。また、ご不明点などあれば、これもまたお気軽に質問してくださいね。お待ちしています。では次回、シミュレーション活用をフィーチャーしてお伝えしたいと思います。ご期待ください。