第4回:配線シールドとシールドビアの関係を考える
2016年06月15日今回は、マイクロ波・ミリ波の通信技術からみた配線パターン設計技術についてです。シールドを目的とするGNDビアの効率的な入れ方やGNDガードビアの数は多いほど良いのかというご質問に回答します。
3月に開催した、マイクロ波・ミリ波ワークショップでは「11、シールドを目的とするGNDビアの効率的な入れ方を知りたい。」「12、RF回路へのノイズ流入を止めるためのGNDガードビアの数は多いほど良いのか知りたい。」という質問をいただいていました。
今回はその問題について考えていきます。
配線シールドとは
EMC対策でよく施される「シールド」という言葉は、Club-Z読者の皆様もよく耳にされていると思います。シールドは、回路のノイズを外部に漏らさないように、または外来ノイズから回路を守るために金属板などで囲う構造のことをいいます。
電線でのシールドというと、地デジのアンテナ接続用に使われる同軸ケーブルを思いつく方もいるでしょう。同軸ケーブルは、図1に示した構造をしており、心線を外周導体全体で囲む構造のため、ノイズが放射しにくく、外来ノイズに強い特長を持ちます。
ではプリント基板でノイズを放射しにくい構造を作るにはどうしたら良いでしょうか。
同軸ケーブルと同等の構造を、配線パターンで形成すれば良いのですが、プリント基板で形成するためには、特殊な製造工程が必要なため一般的ではありません。
プリント基板でノイズが放射しにくい構造は、一般的に、図2のようになります。信号線の外周を囲い、この囲った配線パターンをGNDに接続することで電気的に安定させます。
例えば、配線シールドを行った場合、行わなかった場合、それぞれの基板断面における電力線は図3のようになります。
配線シールドを行うと電気力線が配線シールドに結合され、その成分が外部に放射されにくくなります。
配線シールドとシールドビア
配線シールドのGNDへの接続は図4のように“シールドビア”で接続することが一般的です。
では、配線シールド、シールドビア、GNDベタ面には、どのような関係性があるでしょうか。
配線シールドに関する設計指示には様々なものがありますが、以下にシールドビアの例を挙げてみます。
① 配線シールドの端点を開放しない。端点はシールドビアでベタ面と接続する。
② 配線シールドのシールドビアは出来るだけたくさん入れたほうが良い。
ここで、図研テクニカルラボで測定した、配線シールドとシールドビアの関係について測定した結果を紹介します。(図5)
条件AとBは設計指示例でいう①の端点解放をしてしまった場合です。条件Aに比べ条件Bの方は電界強度で観測されたノイズが下がる傾向にあります。ただし、条件Bの信号配線のロード側(右側)の配線シールドにはシールドビアが無く、解放されているためシールド効果が限定的であり、ノイズの低減が不十分なことが分かります。なお、条件Cは条件AとBよりもノイズレベルが大きく下がっています。つまり設計指示例でいう②を示しており、この測定結果により、シールドビアは増やしたほうが良いという結論が得られます。
RF信号を妨害するノイズをシールドする方法
次に、RF信号を妨害するデジタル信号によるノイズとシールドの関係性について、考えてみたいと思います。
RF回路はアンテナを介して無線通信するため特定の無線周波数だけを利用し、その信号電力が大きい特徴があります。一方、デジタル信号は方形波のため、その波形に含まれる周波数には高調波(※1)成分が多く含まれます。(図6)
通信方式にもよりますが、RF信号は正弦波、デジタル信号は方形波と分けられます。このことから、扱う周波数によってはRF信号にデジタル信号の高調波が重なってしまうケースが発生します。
例えば、図5の条件で配線シールドとシールドビア用いた基板で、UHF帯域800MHzで通信しているシステムがあったと仮定しましょう。(図5の補足として図7を示します。)
図7条件B(シールドビア2個)では800MHz帯域にノイズが認められるため、デジタル信号のノイズがRF信号を妨害することを示し、受信感度の悪化という通信品質の課題につながります。これを改善するためには図7条件C(シールドビア5個)とすれば800MHz帯域ではノイズが少ないため、本来のRF信号を妨害せず、受信感度の改善を期待できます。
仮定として話をしましたが、シールドビアの強化によって通信品質の改善ができると言えるでしょう。実際にシールドビアでしっかりGND強化された基板は良く見ます。
ここまでは通信品質の妨げとなるデジタル高調波の影響と設計段階での対処方法について一例をご紹介しました。では実際に試作した場合にその製品の通信品質をどう評価すればよいのでしょうか。この通信品質を計測する方法についても述べたいと思います。
OTA計測で通信品質を評価する
昨今の電子機器はデジタル回路を用いて製品化されることが多いですが、小型化を目指すとデジタル回路とRF回路が狭い筐体内に同居するため、双方の回路が近接をせざるを得なくなります。これは、RF回路にデジタル回路の不要ノイズが侵入しやすくなり、結果的に通信品質を悪くしてしまう恐れがあるということです。つまり、前述した配線シールドとシールドビアも、基板設計での配慮が不足すると通信品質を悪化させる一つの要因となります。
通信品質の良し悪しは、通信システム全体の性能を評価できるOTA計測を行うことで確認できます。ノイズが原因となる通信感度の悪化は、通信端末と基地局が交信している状態で見つかるため、通信システム全体が動作した状態を模擬して計測する必要があります。確かな通信品質を評価するためには、OTA計測は今後必須になると言えるでしょう。
OTAとは、Over The Airの略称で「実際に電波を飛ばす」という意味です。OTA測定では、基地局と通信端末間のUP LinkとDown Link間の伝搬環境を模擬して無線性能評価を行います。OTA測定システムでは、TRPとTISの結果で無線性能を判断します。
TRP (Total Radiated Power)・・・全球面放射電力 ⇒ Up Linkの試験
TIS (Total Isotropic Sensitivity)・・・全球面放射受信感度 ⇒ Down Linkの試験
このOTA計測が行えるサイトは国内でもあまりありません。マイクロウェーブファクトリー社が運営している計測サイトではOTA計測ができる電波暗室やリバブレーションチャンバーを完備し、お客様の開発・設計を支援するべく暗室のレンタルをしています。さらに、経験豊富な技術スタッフが“確実で効率的な測定”をお手伝いします。
OTA計測や開発評価を検討されている方は、ぜひお問い合わせください。
※1 高調波:ひずみ波交流の中に含まれている、基本波の整数倍の周波数をもつ正弦波。基本波に対して2倍、3倍…のものを、第2調波、第3調波…と呼ぶ。
※2 フーリエ展開(図6内):信号を横軸に時間でみた「時間領域」表現から、横軸に周波数でみた「周波数領域」表現に変換したもの。
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