第3回:ミリ波から考える配線材料と測定技術

今回は、車載センサーや高速データ通信などで注目されているミリ波の通信技術からみた材料や測定技術についてまとめていきたいと思います。


ワークショップテーマ

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みなさん、こんにちは。図研テクニカルセミナー事務局です。3月に開催した、マイクロ波・ミリ波ワークショップで「10、ミリ波の無線通信(WiGig等)やミリ波レーダに関して、配線材料としてはどのような特性が要求されるのか。」という質問を受けていました。そこで、今回は、車載センサーや高速データ通信などで注目されているミリ波の通信技術からみた材料や測定技術についてまとめていきたいと思います。
解説の前に、ミリ波の特長について要点をまとめます。
 

ミリ波の特長

無線通信においてミリ波帯が注目されている理由は次のようなメリットがあるからです。
① 従来の携帯機器や通信ではあまり使われていない周波数帯域のため、データ通信量(帯域幅)を大きくすることができる。
② ミリ波帯をセンシングに用いた場合、対象物の位置やサイズを細かく把握できる。
③ 電波の指向性が高いため特定エリアに絞った通信に向き、他の機器との混信や干渉を起こしにくい。
 
しかし、ミリ波帯域では従来の通信技術をそのまま流用するだけでは性能が取れないことが多々あり、新たな技術確立を行わなければならないという側面もあります。技術確立のために注意しなければならないことは数多くありますが、なかでも代表的な注意事項をいくつかあげてみます。
① ミリ波は波長が短い(例えば、76GHzならば1波長は3.95mm)ため、波長に応じた各部品のサイズ、物理的な精度や制約、材料特性への配慮が求められる。
② ミリ波帯域を活用した無線通信ではデータ通信量も多いため、周辺回路にも大量のデータを短時間で処理するための配慮が必要になる。(例えば、高速デジタル回路のGbps対応、通信制御方法、など)
③ ミリ波の測定には、ミリ波帯まで対応できる専用の測定機材や暗室設備が必要となる。その機材の量も多く、機材や設備を使うための測定知識と測定ノウハウが必要となる。
 
このように、ミリ波帯域を活用した機器を設計するには、無線通信部だけでなく機器全体として検討を進めることが重要です。また、機器の性能を評価するための測定についても、ミリ波帯域ならではのノウハウが重要となります。
 

ミリ波(高周波)での配線材料

それでは、ワークショップでの質問について回答します。
まず、配線材料として使われる代表的な基板には、ガラスエポキシ系基板(ガラエポ基板)、フッ素樹脂系基板(テフロン基板)、セラミック系基板などが一般的に知られています。皆様も回路基板に良く使われるFR-4などのガラエポ基板はご存知かと思います。
高周波通信では、その通信信号をいかに効率よく通信先に届けられるかという観点が重要です。つまり、通信信号が伝播する途中で減衰、欠落しない“損失の無いシステム”を構築する必要があるということです。当然、配線材料でも通信信号が減衰しないように配慮する必要があります。
配線材料では、この通信信号の減衰に影響する代表的な要因は、誘電正接tanδといわれています。一般的に誘電正接tanδが大きくなると損失が大きくなり、誘電正接tanδが小さくなると損失が小さくなります。マイクロ波より高周波であるミリ波では、特にこの誘電正接tanδの影響が無視できないため、誘電正接tanδの値が小さい材料が高周波用途に適しています。

誘電正接

図1


では、先の配線材料は、どのような誘電正接tanδを持っているでしょうか。図1が、それぞれの基板材の誘電正接tanδの一般的な値です。
誘電正接tanδの値は、ガラエポ基板の値が最も大きく、その次にテフロン基板、そしてセラミック基板と値が小さくなります。
つまり上記グラフで誘電正接tanδだけをみれば、高周波化に適する材料はセラミック基板、テフロン基板、ガラエポ基板という順番になります。
ここで注意したいのは、ミリ波帯を扱う回路部はアンテナとRF回路部のみであり、電気回路全体の電子部品数や回路規模に対してそれほど大きくないということです。このため、RF部はテフロン基板、電子部品が大量に実装されるデジタル回路などの回路部はガラエポ多層板といったように、用途によって配線材料を分け、生産性や価格に配慮して配線材料を選定することが一般的です。
また、ミリ波を使ったWiGigのような高速無線データ通信を生かすためには、大量のデータを短時間で処理するために高速デジタル回路としての性能向上が必要になります。そこで最近ではより誘電正接tanδが小さい高周波用のガラエポ基板材料を採用することも多いようです。
なお、配線材の選定については、今回紹介した通信信号の減衰に影響する誘電正接以外の要素もあり、またコストや実装性、加工性など製品全体を考慮して選定することが一般的かと思います。
 

ミリ波の測定技術について

今回のテーマであるミリ波は、上述したように波長が短い(76GHzならば1波長は3.95mm)、電波の指向性が強いなどの特徴があります。よって開発製品の性能評価を正しく行うためには、ミリ波測定技術の確立がとても重要となります。

基準アンテナのアンテナ利得性能を測定評価した例

図2


図2は、ミリ波暗室で76.5GHzの基準アンテナのアンテナ利得性能を測定評価した例です。
送信アンテナ─受信アンテナを対向させてその間を5mとしました。送信受信アンテナの位置合わせを調整したアンテナ利得は25 dBiとなり、この指向性の軸を傾斜し1degずらすとアンテナ利得が10dBiとなる結果となりました。つまり、たった1degずれただけで、アンテナの利得が15 dBiも下がってしまうということです。この結果は、ミリ波帯での電波の指向性がかなり鋭いことを示しており、通信性能にも大きく影響するということです。
また、この結果は性能だけでなく、測定においても誤差が発生する可能性を示しています。誤差を含まない測定を行うためには、測定環境、測定方法にも非常に気を使わなければなりません。
 
マイクロウェーブファクトリー社が運営している計測サイトでは110GHzまで対応できる電波暗室を完備しており、お客様の開発設計を支援するべく暗室のレンタルをしています。暗室には経験豊富な技術スタッフが駐在しており専門的で高度なエンジニアリングサービスを行い“確実で効率的な測定”をお手伝いします。
また、ミリ波帯域のアンテナやそれを含むシステムの開発も行っており、配線材料のプリント基板を使うシステム以外に、導波管を使って作ることもあります。開発を進める過程で、設計サンプルによる実測だけでなくシミュレーションも活用して実測と理論を突き合わせ、目標とする性能の作りこみを行っています。さらに、ミリ波帯域では、波長が特に短いため、加工精度にも注意を払って開発を進めています。
測定仕様などのご相談では、製品仕様をもとにエンジニアリングの観点から、より最適な提案を行うなど、柔軟な対応を行っています。
実測や開発を検討されている方は、ぜひお問い合わせください。
Microwave Factory 八王子 Test Lab.
 
 
 


【参考文献】
*電子情報通信学会 知識ベース、電子材料・デバイス-インターコネクション・実装技術「代表的配線板材料と特性」
*総務省「ミリ波帯高速無線伝送システムに関する調査検討報告書 平成22年3月」
 

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