第2回:高周波化技術からみた、SI解析で使用するモデル


先日開催された「マイクロ波/ミリ波の設計&測定セミナー」では、参加者の皆さまが日頃抱えているマイクロ波・ミリ波に関する悩みについて、セミナーの講演者を招いてパネルディスカッションする場を設けました。今回から、当日のワークショップで時間切れのために討議ができなかったテーマについてテクニカルセミナー事務局から解説をしたいと思います。
今回は、高周波通信という大枠で取り上げたワークショプテーマである、「5、SI解析(伝送線路解析)で使用するモデル(IBIS,SPICE,Sパラメータ)の違いについて知りたい。」を取り上げたいと思います。


SI解析(伝送線路解析)で使用するモデルとは

近年、デジタル回路が高速化するのに伴ってマイクロ波・ミリ波の解析で利用されているSパラメータなどのアナログ回路の技術が、デジタル回路でも利用され始めています。
今回のテーマは、マイクロ波・ミリ波とは直接の関係はありませんが、高速デジタル回路のSI解析での用途を踏まえながら、これらの技術をご紹介します。
まず最初にSI解析(伝送線路解析)で使用するモデルの概要と用途を整理してみましょう。
 
SI解析(伝送線路解析)で使用するモデルの概要と用途
表をよく見ると、同じ用途でありながら違うモデル形式で提供されるケースがあることに気付くと思います。では、使用するモデルによってそれぞれどんな違いが出てくるのでしょうか。アプリケーション(実務への応用)の面から探ってみようと思います。
 

デジタルICにおけるIBISとSPICEの違い

Micron社ホームページより

Micron社ホームページより


最近ではIBISモデルとSPICEモデルの両方を掲載するメーカも出てきています。そんな状況もあって今回の質問となったのかもしれません。
解析ニーズの多様化に伴い、IBISモデルでは満足できないユーザーに向けてSPICEモデル(多くは暗号化されたHSPICEモデル)が提供され始めているようです。
あくまで一般論となりますが、解析の実務という点からIBISモデルとSPICEモデルの違いは、”より高度な解析ができるかどうか”になるかと思います。
 
IBISモデルとSPICEモデル

※IBISやSPICEを高度に使いこなすには、モデルや回路動作などを理解するスキルが必要です。 また、HSPICEモデルを使ってシミュレーションするためにはHSPICEが必要です。


例えば、IBISモデルはある電源電圧における電圧-電流といったようにファイルに記載されるため、決められた条件下での振る舞いしか表現できません。これに対してSPICEモデルは、回路(または関数)として提供されるため、実施したい条件をSPICEモデルに設定できます。つまり、実施したい条件で解析を行うことができるわけです。
では、どのような使い分けをすれば良いのでしょうか?「SPICEに比べIBISは精度がちょっとね…」なんていう声もお客様から聞いたこともありますが実際はどうなのでしょうか。
メーカによっては、IBISモデルとSPICEモデルを使った解析結果の比較レポートを同梱し、どの程度の相関関係があるのかを開示しているケースがあります。
例えば、以下に示したのは、メモリメーカMicron社が提供している比較レポートで、HSPICEモデルの解析結果とIBISモデルの解析結果が記載されています。
 
Micron社ドキュメント v80a_ext_model_quality_rpt_rev2p5.pdf より

Micron社ドキュメント v80a_ext_model_quality_rpt_rev2p5.pdf より


【拡大図】
拡大図
このような精度に関する情報が入手できれば、自分が実施したい解析要件に応じてIBISモデルを使うのが適当か、SPICEモデルを使うのが適当かの切り分けができるようになります。自分が解析したい条件がIBISで満足できる、SPICEとIBISの相関性も納得しているのでしたら、IBISの解析で十分なのかもしれません。
例えば、配線の影響による信号品質を確認したいのならばIBISで、電源の揺れまで含めて確認したいのならばSPICEを使うなどといった使い分けが考えられます。
※今回紹介したのはあくまで一例です。全てのIBISモデルにSPICEとの比較レポートが付属しているわけではありません。
 

受動部品におけるSPICEモデルとSパラメータの違い

最近は受動部品のモデルがSPICEモデルだけでなくSパラメータでも提供されるケースが増えてきました。Sパラメータは元々アナログやマイクロ波/ミリ波の分野で利用されていましたが、デジタル回路の高速化に伴って近年、部品モデルや配線形状の特性評価に使われるようになりました。
Sパラメータの特長は、SPICEのように等価回路で部品を表現するのではなく、部品や形状に信号を印加(※1)した時の反射、通過を周波数ごとの特性として表現している点です。
受動部品におけるSPICEモデルとSパラメータ
例えば検討する部品が複数ある場合、SPICEの等価回路では直観的にはどの部品がどんな伝送特性をもっているかを知ることは難しいかと思います。しかし、Sパラメータであれば特性が比較できるため、どの部品がどの程度の伝送特性があるのか把握することができます。
部品による特性の違い
いろいろとメリットのあるSパラメータですが、他のモデルと異なりシミュレーションで利用する際の注意点がいくつかあります。今回は代表的な例として受動性についてご紹介します。
受動部品は、通常入力信号以上の振幅にはなりませんが、Sパラメータを取得する際の測定誤差や、シミュレーションの計算誤差などの影響で、受動部品にも拘らず入力信号が増幅される特性となることがあります。
 
Sパラメータを取得する際の測定誤差や、シミュレーションの計算誤差などの影響 このようなモデルを使って解析を行うと解析結果にどんな影響がでるでしょうか。参考になる文献がありましたので最後に紹介します。
 

Impact of Non-Passivity

Enforcement Passivity of S-parameter Sampled Frequency Data Wenliang Tseng, Sogo Hsu, Frank Y.C. Pai and Scott C.S. Li Asian IBIS Summit, Taipei, Taiwan November 12, 2010 (P.5 Impact of Non-passivityより引用)


正しい波形が出力されず、このままでは解析のモデルとしては使えないことが一目瞭然です。Sパラメータを利用する際には受動性のチェックが必要ということを認識頂けたと思います。図研ではCR-8000のSI解析でSパラメータを効率的に運用頂けるソリューションを提供しています。今回ご紹介した受動性のチェックも簡単に実施できます。


いかがでしたか?SI解析(伝送線路解析)で使用するモデル(IBIS,SPICE,Sパラメータ)の違いについて少しは理解していただけたでしょうか。
次回 も、ワークショップで取り上げた内容について、考えていきたいと思います。
ご期待ください。


※1 印加:電気回路に電源や別の回路から電圧や信号を与えること。
 

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