第7回 Leafonyを用いたデータロガーシステムの構築-学生たちが挑む企画から製品化まで-
2020年06月11日
今回は、授業の中で学生たちに出された「ものづくり課題」を通してLeafonyを紹介します。あくまでここでの主役は、課題に取り組む学生たちです。ものづくり課題を限られた時間の中で、学生たちがどのように製品を作り込んで行ったのか、興味を持っていただければ幸いです。
学校と学生、そして課題について
厚生労働省が所管する職業能力開発総合大学校(略称:職業大)は、職業訓練やものづくり注)の教育訓練を担う人材の育成などを行っている国内唯一の機関です。その中の電子情報専攻、3年生の学生たちが取り組んだ「電子通信機器設計製作課題実習(通称:標準課題)」について、今回取材を行いました。
標準課題は、以下の3つの方式を取り入れた実習です。
1. 実学融合方式
実製品に近い総合的な実習課題によって「ものづくり」を体験し、その課題を解決する過程の中で「ものづくり」に必要となる専門的知識および工学的理論について必然的に習得できる。
2. ワーキンググループ方式
実際の「ものづくり」現場を想定し、複数名の学生でグループを構成、全体で複数グループを構成する。各グループが「ものづくり」を通じてチームワーク、コミュニケーション能力、リーダーシップ力などを習得する。
3. 課題学習方式
「ものづくり」の一連の工程を体験することで、これまでに習得した技能・技術要素の活用、創意工夫が促進される。そこで独自性と構想力、問題発見・分析能力およびマネジメント力が習得できる。
課題に取り組む中で製品の企画から製造までを行う、ものづくりに携わる企業における製品開発一連の活動を短期集中で体験させる実習です。今回26名の学生たちは8つの班に分かれ、それぞれA社~H社と呼ばれ、このカリキュラムの中で仮想の「企業活動」を行いました。
教員側が発注者となり、学生側の「受注企業」に製品概要や各種条件などを伝えます。受注各社は社内で製品仕様を作成し、製品のイメージを共有し、開発の各段階で方針や開発仕様などを発注者に説明します。受注企業の「社員」は、それぞれ役割分担が異なるため、議事録を作って互いに進捗を確認し合い、工程管理や予算管理も学生自ら行います。
発注者からの開発依頼製品の仕様と条件
発注者から受注各社へ提示された開発依頼製品は、無線通信を用いた「データロガーシステムの構築」でした。これは、「子機のセンサによりデータを取得する ⇒ そのデータを通信装置により子機から親機へ送る ⇒ 受信した親機の内部でデータを処理する ⇒ その結果を表示・保存する」といった一連の流れを実現するシステムを製作します。
製品開発の主な条件は以下の通りです。
●通信方式は、ZigBee規格を使う
●製品開発に必要なPCや装置などは学校の設備を使用
●納品期限は約半年(4コマ×18週)の授業時間内
⇒設定されている授業時間は144時間、ただし、授業時間外の放課後でも設備の使用は可能
●製品材料費の上限は特には設定していないが、予め提示している、製品を構築する時に必要と思われる必要最低限の部品(標準部品)の金額を考慮し、特に受注各社内で必要と思う標準部品以外の新規部品については、教員と相談することが必要(材料費の制約はないが、中間、最終発表時には発表内容に組込むことにしており、製品コストを意識させている)
●次の各ドキュメントを発注者へ提出することが必要
⇒製品仕様、製品概要(ブロック図など)
⇒工程管理(ガントチャートなど)
⇒設計図(ハードウェア[基板、筐体]、ソフトウェア[状態遷移図])
⇒製品材料費
⇒操作マニュアル(取扱説明書など)
●開発製品の概要や進捗状況などを説明するプレゼンテーションを全社で実施
⇒中間発表:納品期限の約2ヶ月前
⇒最終発表:納品期限の約2週間前
今回、学生たちに提供されたLeafonyのリーフは、Basic Kit内のMCUリーフ、USBリーフ、29pinリーフ(29本の信号がスルーホールに接続)という3種類のみで、各種センサや通信モジュールなどは学生自ら工夫して、親機(主に通信機能とデータ保存、表示機能を持つ)、子機(主にセンサと通信機能を持つ)の基板を設計製作します。
なお、職業大では、以前より図研ツールが使われており、今回の課題でも多くの学生たちが、回路・基板設計を図研ツールで行っていました。また、今回、使用したMCUリーフのマイコン(Arduino)は、学生にとっては初めてのマイコンで、当然そのプログラムも初めてとなります。
中間発表で明らかになる各社の製品仕様と進捗
編集局を含む図研一行が最初に伺ったのが、中間発表です。既に「発注」から3ヶ月半が経過し、各社から発注者への個別の説明はあったようですが、全社による一斉発表は初めてで、各社の製品仕様と進捗が明らかになりました。
8社中6社の製品仕様が、温湿度や照度などのセンサデータを取得することがコアとなっていました。しかし、同等のセンサを用いていても、目的やコンセプトが明確な企業ほど、製品への展開が的確であることが印象的でした。例えば、取得したデータをユーザに見せるところで終わっている企業と、データを使用して具体的に役立つ機能を実現しようとしている企業があり、後者の例で最もわかりやすかったのが、「土壌の湿度データを取得し、給水の必要性を判断し、自動で植物に水遣りをする」という製品でした。
ここまでの進捗として、使おうとしている部品の動作や機能の確認やソフトウェアのプログラミングなどは順調な一方、ハードウェア製作が進んでいないという企業が多いようでした。最終発表を1ヶ月半後に控え、全社とも製品の完成までが概ね厳しそうな印象があり、オブザーバ参加の図研にコメントを求められた際には「限られた期間でどこまでの機能を実装するのかの見極めも重要」とアドバイスしました。
また、競合企業もいる中で自社の製品を売り込むという点で、まずコンセプトをまとめきれていない企業が多かったので、独自性やコストパフォーマンス、そしてなによりまず「自分が欲しいか?」という視点が重要であるとのアドバイスもしました。
最終発表では猛烈なスパートにより各社の作り込みを披露
図研一行が再び職業大に伺ったのは、前回の中間発表から1ヶ月半後の最終発表です。中間発表での進捗の遅れやコンセプトの甘さなどの認識が共有できたようで、製品の完成度や開発仕様の実現度などが企業間で差があるものの、ハードウェアの製作が完成し、製品が稼働している様子を動画で説明している企業も多く見られました。
特に、企業内のコミュニケーションが上手く取れているか否かで、製品の完成度に差がみられました。コミュニケーション不足の場合は、動作不具合を起こしたり、完成までに仕様の調整やどこを削るかを決められないまま発表を迎えた企業もありました。一方、コミュニケーションが上手く取れている場合は、社内の担当分けや進捗管理などが機能していて、残スケジュールに合わせて仕様の調整もでき、製品の完成まで到達できていましたが、しかしその中でも、学生の得手不得手による役割分担のバランスが悪いために、チームとしての総合力が発揮できない企業もありました。
また、当初Leafonyの使用を計画していた企業の中には、SRAM、フラッシュメモリの容量不足によって、他のデバイス(具体的にはM5Stack)を使用した企業がありました。その企業に対しては、「通信規格を再考すればLeafonyが使用できるかも」、「ESP32版のリーフを使うことでライブラリを見つけられるのでは」などのコメントがありました。
中央:温湿度センサによりファンを速度制御する空間整圧器の事例
右 :開閉時間のログを記録する複数ユーザ対応の電子錠の事例
各社の発表の最後に、先生方から講評があり、「期限までにどこまで実現させるのか」を考えて、「落としどころを決めてそこに向かって努力するように」というコメントや、今回の課題で調査したこと、設計したことを「ノートに記録して蓄積していくクセを付けて欲しい」とのコメントがありました。
これから社会人になるために必要な基礎固めの意味で贈られた言葉ではありますが、既に社会人を長くやっている自分にも響きました。
教員からの一言(標準課題のご担当者よりコメントいただきました)
教員は最終発表後に、学生が作成した取扱説明書に基づく各製品の動作確認を実施しており、設定されている授業時間内に完成が間に合わない企業もありましたが、授業時間超過後の1週間以内に全ての企業が製品を完成させたことを確認できました。最終発表では上手く表現できていなかった企業も、最後の動作確認では製品としてはまずまずの成果をあげていました。学生は就職活動もあり、期限内に仕上がらないのも仕方ないと思うところもありますが、製品の完成まで頑張った学生たちには達成感がみられました。
おまけ:
図研は、先端エレクトロニクスの研究・教育分野、実践的な技術者養成に積極的な貢献を行うべく、こうした機関向けの特別プログラムを設けたり、導入から運用までの実践的な立ち上げ支援をしたりといった活動を、実に40年以上行ってきています。
注)図研のWebや印刷物などでは、原則として「モノづくり」という表記をしていますが、職業大での表記に合わせ、本記事では「ものづくり」という表記に統一してあります。