第53回:ダメな自分を学習しないために
2016年01月21日株式会社RDPi 代表取締役 石橋 良造
新年を迎えたこの時期、今年の抱負を立てた人も多いと思います。しかし、日々の様々な出来事の連続の中では、新年を迎えたときの「今年はやるぞ」「今年こそは絶対だ」という気持ちを持ち続けることは簡単ではないと思いますが、やるぞという最初の気持ちは大切にしたいものです。ましてや、やる気を失うようなことにはなりたくないものです。
そこで今回は、やる気を失う原因のひとつとその対処方法を紹介したいと思います。
新年明けましておめでとうございます。RDPi 石橋です。
今年も新年を迎えることができ、晴れ晴れとした気持ちになると同時に、今年も頑張ろうと身が引き締まります。
これは昨年末に飛行機から撮った富士山ですが、とくにこの時期の富士山の凛とした姿は格別で、写真で繰り返し見てもやはり身が引き締まります。皆さんはどんな気持ちで新年を迎えたでしょうか?
新年を迎えたこの時期、今年の抱負を立てた人も多いと思います。
私の場合は、昨年は日本ポジティブ心理学協会の公認プラクティショナーとなり、成果につながる組織の仕組みと、個人の高いパフォーマンスを引き出す仕組みづくりに貢献できる成長ができたので、今年もまた、組織と人の両方に同時に働きかけるための新たな力を身につけたいと考えています。
ただ、すでにお正月も遠い昔のようで新年の抱負と言われてもちょっとという人もいるかもしれません。日々の様々な出来事の連続の中では、新年を迎えたときの「今年はやるぞ」「今年こそは絶対だ」という気持ちを持ち続けることは簡単ではないと思いますが、やるぞという最初の気持ちは大切にしたいものです。ましてや、やる気を失うようなことにはなりたくないものです。
そこで今回は、やる気を失う原因のひとつとその対処方法を紹介したいと思います。
学習性無力感
いろいろな事情はあるものの、やろうと思っていたことができなかったり、希望していたことが叶わなかったりすることを繰り返し経験していると、何に対してもやる気を失ってしまったり、どうせダメだからと最初から諦めてしまうことが普通になることがあります。
このように、「努力しても良い結果に結びつけることはできないから何をやってもムダだ」という思いが強くなり、困難に立ち向かう意欲や目標を達成しようというモチベーションが小さくなる状態を「学習性無力感(Learned Helplessness)」といいます。
1年の最初となるこの時期、学習性無力感に陥っていないか、自分の状態を確認することは大切です。ちなみに、学習性無力感は、ポジティブ心理学の創設者のひとりであり、アメリカ心理学会の会長であるマーティン・セリグマンの研究成果です。
学習性無力感は人間だけに限ったものではありません。イヌやネコなどの哺乳類はもちろんのこと、ノミにも見られるのです。ノミをビーカーに入れるとピョンピョン跳ねてビーカーの外に出てしまいますが、ガラス板で蓋をすると、はじめのうちはビーカーの外に出ようと飛び跳ねていたノミも、いつの間にか飛び跳ねることを止めてしまいます。そして、ガラス板を外しても飛び跳ねて外に出ることはありません。
このノミのように、以前にダメだったからといって飛ぶことを諦めていないでしょうか。ノミのようにダメだった結果だけを学習してしまうのではなく、ダメだった原因がガラス板にあることを分析し、その原因を避ける工夫や、状況が変わっているのではないかという冷静な視野で、学習を続けることが大切なのです。
せっかく持っている学習する能力なのに、ノミのようにダメだった結果だけを学習してそれ以上の学習を止めてしまい、変わる現実を見ようしない姿勢は残念です。いつでも、どんなときでも、やる前からあきらめてはいけませんよね。
自己効力感
「何をしてもどうせムダなんだ」という学習性無力感から抜け出すには、自己効力感(Self Efficacy)を高める必要があります。自己効力感とは、心理学者アルバート・バンデューラが提供した概念で、外界の事柄に対し自分がなんらかの働きかけをすることが可能であるという感覚や、自分にはある目標に到達するための能力があるという感覚のことです。
図157 は、アルバート・バンデューラが提唱した人が自ら行動を起こすモデルで「結果期待」と「効力期待」とに分かれているのがポイントです。
「結果期待」とは、ある行動がどのような結果を生み出すかという予測のことで、次に起こることや必要となるであろう方策をある程度イメージできる状態のことです。
「効力期待」とは、結果を生み出すために必要な行動をうまく実行できるという予測のことです。つまり、結果はわからないけど、とにかくやってみようと思えるということです。
学習性無力感とは、何かの行動を起こす前からあきらめてしまうのですから、とにかくやってみようという効力期待を高めることが自己効力感を高めることであり、学習性無力感に陥るのを避けることになるというのがわかります。
自己効力感を高める方法
それでは、自己効力感を高める方法について紹介しておきましょう。バンデューラによれば次に占める4つの経験が有効だということです。
1. 達成体験
自分の中で系統的に達成可能な目標を設定し、その成功体験を積み重ねていくことです。スモールステップ法とも言われています。
2. 代理経験
自分が望むことができている人やお手本にしたい人の行動を観察して、どんな行動がその人の達成や成功に影響しているのかを分析し、自分の行動に取り入れることです。
3. 言語的説得
自分の行動や努力を信頼している人から評価されるなど、自分に能力があることを言語的に励まされることです。
4. 生理的情緒的高揚
酒や薬物などを使って気分を高揚させることです。
最後の生理的情緒的高揚は依存性があるのでできるだけ避ける必要がありますが、その他の3つについては普段から意識することが大切です。そして、この中で自己効力感を高めるのにもっとも効果的なのは達成体験だといわれています。
それでは、達成体験のためには何をすればいいのでしょうか? それは、普段からチャレンジを繰り返すことです。たとえば、挨拶する、感謝を伝える、親切にするなど、自分にとってちょっとだけ勇気のいることを何でもいいので、いつもチャレンジすることを意識して、とにかくやってみることをお勧めします。
今年まだはじまったばかりですが、1年を過ごす中では、失敗したことでやる気を失ったり、できないことが続いて諦めてしまったりすることがあるかもしれません。そんなときは、学習性無力感に陥っていないか、自己効力感を高める工夫やチャレンジを忘れていないかと自分を客観的に振り返ってほしいと思います。
また、新年を迎えたときに決めた今年の抱負や計画についても、忘れることなく、諦めることなく、達成するための努力や挑戦を続けたいですよね。無くなっている天井に気づかず、高く飛ぶことを諦めてしまうノミのようにはならないようにしたいですから。
それでは、今年もどうぞよろしくお願いします。
●執筆者プロフィール 石橋 良造
日本ヒューレット・パッカード (HP) に入社し、R&D 部門で半導体計測システムの開発に従事した後、設計・製造改革プロジェクトに参加。ここで、HP 全社を巻き込んだ PLM システムの開発や、石川賞を受賞した製品開発の仕組み作りを行い、その経験をもとに 80 社以上に対して開発プロセス革新やプロジェクト管理のコンサルティングを実施。
コンサルティングを続ける中で、より良い改革のためには個人の意識改革も合わせて実施する必要があるとの思いが強くなり、独立して株式会社 RDPi を設立した後、北京オリンピックで石井慧を金メダルに導いた(株) チームフローのコーチ養成コース、および、一般社団法人 日本ポジティブ心理学協会の公式プラクティショナー・コースを修了し、個人のやる気を引き出す技術の開発と、開発プロセスやプロジェクト管理の仕組み改革とを融合した改善活動を続けている。
●株式会社 RDPi :http://www.rdpi.jp/
●メトリクス管理ウェブ : http://www.metrics.jp/
●Email : ishibashi@rdpi.jp
●ブログ : http://ameblo.jp/iryozo/entrylist.html
●facebook : やる気の技術 仕組みと意識を変える RDPi
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