第62回 あなたにとっての幸せとは?
2017年04月20日今回は、国際ポジティブ心理学学会(IPPA)の日本支部である日本ポジティブ心理学協会(JPPA)のプラクティショナーとして、理論や裏付けとともにポジティブ心理学の内容を何回かに分けて紹介したいと思います。
こんにちは、RDPi 石橋です。
このコラムでは組織の仕組みと個人の心の両方をテーマにしています。心の話題はポジティブ心理学をベースにしていますが、ポジティブ心理学というのは、アメリカ心理学会の会長も務めたマーティン・セリグマンらが創設した個人や社会を繁栄させるような強みや長所を研究する心理学の一分野で、一般の人が幸せで豊かな人生を送るための実践的な手法を科学的に研究することを特徴としています。
テレビなどのメディアや書籍、インターネットなどでは、心理学と称して様々なことが紹介されていますが、裏付けのないものや理論が曖昧なものが少なくありません。ここでは、国際ポジティブ心理学学会(IPPA)の日本支部である日本ポジティブ心理学協会(JPPA)のプラクティショナーとして、理論や裏付けとともにポジティブ心理学の内容を何回かに分けて紹介したいと思います。充実感、満足感、幸福感を実感できるよりよい日常を過ごすためのヒントになれば幸いです。
ポジティブとは
ポジティブ心理学は「ポジティブ」とついていることから、ポジティブシンキングやプラス思考などと同じものだと思ってしまうことが多いようです。ポジティブシンキングやプラス思考などは、いつでもポジティブであることを勧めているものがほとんどです。これらが目指していることは「100% ポジティブ」ということができるでしょう。
しかし、ポジティブ心理学は 100% ポジティブを勧めてはいませんし、反対に危険であるといっています。
ポジティブシンキングやプラス思考を重視すると、ネガティブ感情やマイナス思考を押さえ込んでしまい、何に対しても甘い判断をしてしまうことでトラブルに巻き込まれたり危険な状況に陥ったりすることになりかねません。さらに度が過ぎると、現実逃避が常態化して幻想や妄想の状態になったり、ネガティブなことを考えてしまう自分を否定して鬱病になったりするケースもあります。
ポジティブ心理学は、ポジティブ感情とネガティブ感情のどちらにも大切な役割があり、両方ともが人にとって必要なもので、重要なのはそのバランスだといっています。ポジティブ感情とネガティブ感情それぞれの役割や適切なバランスについては、次回以降で解説したいと思います。
幸福とは
次は「幸福」について考えたいと思います。そのためにはまず、幸せかどうか、その度合いを調べる必要があります。そのための簡単な方法があるので紹介しましょう。
その方法とは「人生のハシゴ」といわれているもので、ギャラップ世界世論調査で使われている主観的な幸福感の測定尺度です。「キャントリルのハシゴ」と呼ばれることもあります。「考え得る最悪の人生」をゼロ、「最高の人生」を 10 としたハシゴを想像してもらい、現在、自分が立っていると思う位置を回答してもらうというものです。
人生のハシゴを使うと、文字が書けない、あるいは、文字がない人たちも質問に回答できるため、どんな未開の地であっても同じように幸福度を調べることができます。英国の民間シンクタンク New Economics Foundation が世界中の国々の幸福度を調査した結果を紹介しましょう。
この調査結果では 140 ヶ国中の幸福度トップ 10 は次のとおりです。北欧の国々が比較的高い順位となっていますが、明確な傾向があるわけではありません。日本は 39 位です。
1. スイス
2. ノルウェー
3. アイスランド
4. スウェーデン
5. オランダ
6. デンマーク
7. カナダ
8. オーストリア
9. フィンランド
10. コスタリカ
さらに、この民間シンクタンクは地球幸福度指数(Happy Planet Index)という指標を使って各国の幸福度を調査しています。この指数は人生のハシゴに加えて平均寿命とそれらの格差、そして、エコロジカル・フットプリントを使ったもので、1位はコスタリカ、2位はメキシコ、3位はコロンビアとなっています。日本は 58 位です。
これらの調査結果からは、幸福であることは、先進国か開発途上国か、あるいは、1人あたりの GDP などは直接には関係しないことがわかります。何が幸福かどうかを決めるのかを明確にすることは単純ではありません。
人生の満足度
何が幸福に関係するのかを明確にするのは単純ではありませんが、幸福を具体的に定義したもののひとつとして「主観的ウェルビーイング(Subjective Well-Being; SWB)」があります。
主観的ウェルビーイングは、幸福とは自分の人生にどれだけ満足しているのか、ポジティブ感情をどれだけ頻繁に感じているのか、そして、ネガティブ感情が低いレベルになっているかだとしています。つまり、幸福感が高いというのは主観的ウェルビーイングが高いということであり、それは、人生の満足度が高くて、ポジティブ感情が多くネガティブ感情が少ないということです。
幸福感を決める重要な要素である「人生の満足度」は、心理学者エド・ディーナーが作った「人生満足度尺度(Satisfaction With Life Scale; SWLS)」を使って計測することができます。次に示す5つの質問に、1(まったくそう思わない)から7(強くそう思う)までの7段階で答えるというものです。ぜひ、やってみてください。
人生の満足度はこの5つの質問に対する回答の合計点で判定します。以下がその判定方法です。
合計点 人生の満足度
30 – 35 とても満足している
25 – 29 満足している
20 – 24 どちらでもない
15 – 19 やや不満である
10 – 14 不満である
5 – 9 非常に不満である
さて、実際の人生の満足度を計測してみて、どう感じたでしょうか? 実は、人生満足度尺度は回答しているときの気分によって点数がかなり左右されます。また、考えている対象やその頻度、時間などによっても変化します。主観的ウェルビーイングで定義する幸福感は、様々な要因によって変わる気分の影響を受けるということです。
ライフライン・チャート
それでは、人生の満足度つまりは幸福感に何が影響するのかを「ライフライン・チャート」を使ってもう少し深く考えてみましょう。
ライフライン・チャートとは、横軸に年齢、縦軸に幸せの度合い(幸福度)をとって、いろいろな出来事によって幸福度がどのように変化したのかをグラフ化したものです。自分がどのようなことに幸福を感じるのかを分析するために、今までのことを振り返ってみて、年齢とともにどのような出来事があったのか、それは幸せ(プラス)だったのか、不幸せ(マイナス)だったのか、その度合いはどのくらいだったのか、あなたのライフライン・チャートを書いてみましょう。
自分のライフライン・チャートが書けたら、グラフの山の部分と谷の部分のそれぞれについて、具体的に何があったのか、何が良かった/悪かったのか、関係した人はいたか、その人とはどんな関係だったのか、どんなことが印象に残っているかなどを振り返ってみてください。さらに、これから先のグラフはどうなるのかも書いてみてください。
いかがでしょうか? ライフライン・チャートを書くことで、何が自分の幸福に影響するのかが少し具体的になったのではないでしょうか。
人生満足度にかかわる要因
他の人とライフライン・チャートを共有すると、何が幸せに関係するのかは人によって様々だということがわかります。ただ、多くの実証実験により、幸福感(主観的ウェルビーイング)に何が寄与するのかがある程度明らかになっています。この表は、それらの実証実験の結果をもとに心理学者クリストファー・ピーターソンが、他の要因の影響がない状態で幸福感や人生の満足度に影響する要因を統計的に分析して、強く影響する、中程度に影響する、弱い影響しかないの3つに整理したものです。
話題になりがちな年齢、性別、学歴、収入などの社会的属性は人生の満足度との相関は小さいことがわかります。つまり、幸福かどうかは年齢や性別、学歴、収入などにはほとんど関係しないということです。
友人の数、結婚、外向性などは対人関係ということができますが、これらは中程度の相関なので、よい人間関係を構築することは幸福感を高めるということができます。
楽観性、自尊感情が強い相関を持つというのは、自分自身を認め、自分の可能性を信じて物事を良い方向に考えることが幸福感や人生の満足度を高めることになることを示しています。つまり、自分や自分の可能性を信じることは幸せを呼び寄せることになるといってもいいでしょう。
今回は、人生の満足度の計測も含めて幸せについて考えてみました。誰もが幸せでいたい、幸せになりたいと願うはずですし、実際、幸福感は高いパフォーマンスや成果、成長に関係することがわかっていますが、一方で、幸せはとらえどころがなく、幸せになる方法もよくわからないのが現実だと思います。今回の記事で自分の幸福感について新たな気づきが生まれたでしょうか? 次回以降も楽しみにしていただければと思います。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
●執筆者プロフィール 石橋 良造
日本ヒューレット・パッカード (HP) に入社し、R&D 部門で半導体計測システムの開発に従事した後、設計・製造改革プロジェクトに参加。ここで、HP 全社を巻き込んだ PLM システムの開発や、石川賞を受賞した製品開発の仕組み作りを行い、その経験をもとに 80 社以上に対して開発プロセス革新やプロジェクト管理のコンサルティングを実施。
コンサルティングを続ける中で、より良い改革のためには個人の意識改革も合わせて実施する必要があるとの思いが強くなり、独立して株式会社 RDPi を設立した後、北京オリンピックで石井慧を金メダルに導いた(株) チームフローのコーチ養成コース、および、一般社団法人 日本ポジティブ心理学協会の公式プラクティショナー・コースを修了し、個人のやる気を引き出す技術の開発と、開発プロセスやプロジェクト管理の仕組み改革とを融合した改善活動を続けている。
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