第61回 ビジョン、ゴール、シナリオで作る計画
2017年02月23日新年度に向けてビジネスやプロジェクト、改善など様々な取り組みに対して計画を作成する機会が増えているのではないでしょうか。今回は、計画を作成する意義や重要性を考慮した計画作成の方法を解説したいと思います。
こんにちは、RDPi 石橋です。
4月から新しい年度がはじまるというところは多いと思います。新年度に向けてビジネスやプロジェクト、改善など様々な取り組みに対して計画を作成する機会が増えているのではないでしょうか。
計画を作成することで、一緒に活動するメンバーや関係者との間の認識違いや非効率なやりとりを減らし、不確実なことに対する対策や対応を明確にすることでリスクを減らすなど、多くのメリットがあります。誰もがわかっていることだと思いますが、現実には計画作成が決められたフォーマットに合わせて文書を提出するだけの作業になっていたり、単に納期や締め切りに合わせてスケジュールを引くだけの作業になったりしていることも多いものです。そこで今回は、計画を作成する意義や重要性を考慮した計画作成の方法を解説したいと思います。
計画作成プロセス
事業計画、中期計画、開発計画、プロジェクト計画、業務改善計画など、計画にはいろいろなものがありますが、どのようなものであれ、計画とは人が集まって何かを成し遂げる際に、右往左往することなく効率よく物事を進めるために作成するものです。そして、この目的を果たすような計画にするためには、適切な方法で計画を作成する必要があります。以下の図(図184)はその方法を示しています。計画はビジョン作成、ゴール設定、シナリオ設計という一連の作業の後にできあがるものだというのがポイントです。
それでは、計画作成プロセスの各ステップを解説したいと思います。
ビジョン
ビジョンとは達成イメージのことで、実現しようとしている状態や姿を具体化したものです。未来の姿なのですが、すでに存在している現実の姿かのようにありありとその様子を説明できるまでに具体化することが大切です。
たとえば、ある事業の5年後までの中期計画であれば、5年後にどのような部署があって、どのような環境で、どのような業務をやっているのか、さらには、どのような人たちがどのような振る舞いをしているのか、どのような表情でどのようなやりとりをしているのかなど、まるで今見ているかのようにどんな質問にも答えることができるようになっているのがビジョンです。
また、ビジョンは関係者としっかりと共有することも大切です。頭の中で実現している未来の姿を伝えるのは簡単ではありませんが、とくに象徴的、特徴的なところを文書化したり、しっかりと時間をとって関係者からの質問に答えるなど、いろいろな工夫をして達成イメージを共有する必要があります。
ゴール
ゴールとは達成する具体的な目標のことで、何をもって達成したかが明確に判断できるような記述になったものです。ビジョンが現実のものになったことを客観的に判断できるのがゴールですから、程度や時間、頻度などの定量的な要素を含む記述になっている必要があります。
ビジョンは実現を目指す状態や姿などのイメージですから、実際に達成できているかどうかは多角的な観点で判断するのが妥当だと考えられます。したがって、ゴールはひとつだけではなくいくつかの観点から複数設定することになるはずです。
ただし、単純に複数のゴールを設定しただけでは、実際に取り組む際にリソースや意欲を分散させてしまい、活動にマイナスの影響を与えることになりがちです。そこで、絶対に達成すべきゴール(コミットメント・ゴール)と、頑張るけれども結果的に達成できないかもしれないゴール(ストレッチ・ゴール)に分けてゴールを設定することが大切になります。絶対に達成するために集中すべき目標と、さらにその先の目指すべき目標とが明確になります。
シナリオ
シナリオとはゴールを達成しビジョンを実現するまでの段取りのことで、どのようなステップや方法で活動するのかを明確にしたものです。活動における制約条件や解決すべき課題、途中のマイルストーンやその成果などを明らかにすることで、ゴール達成までの段取りを明らかにします。
シナリオを考える際に重要になるのが、何の問題もなくスムーズに事が運ぶという前提で考えるのではなく、発生する可能性がある問題や障害を洗い出し、それらが原因でトラブルになったときにどのような対応がとれるのかといった、起こりうるイベントを考慮した複数のシナリオを考えるということです。
計画(スケジュール)
ビジョン、ゴール、シナリオを作成した後、最後に作成するのが時間軸や作業、担当などが明確になっているスケジュールを含む計画です。いつまでに誰が何をやるのか、その際に必要となるリソースは何か、などが明確になっている必要があります。
計画を机上の空論に終わらせるのではなく、本当に意味のあるものにするためには、すべての関係者がビジョンを共有し、シナリオにしたがってお互いに協力しながらゴールに向かって前進することができる計画にすることが大切です。そのために、ビジョン、ゴール、シナリオを作成して共有し、その上で計画を作成する必要があるのです。
ミッション,(コア)バリュー
ビジョンやゴールと同列に扱われるものに、ミッションとバリュー(コア・バリュー)があります。計画作成には直接関係しないと考えられがちですが、どちらも計画を実行する際に重要となる概念ですから、ミッションとバリューについても解説しておきたいと思います。
ミッションとは、果たすべき役割や貢献、あるいは、組織として取るべき行動のことで、組織としての存在理由ともいえるものです。組織内のメンバーの役割や取り組む作業は違っていても、ミッションが明確であればメンバーのベクトルを常に同じにできます。また、想定外のことが起きたときでも、ミッションは組織として何が正しいのかという判断基準を示しているので、組織としてあるべき対応をとることができます。組織における意志決定や行動に対する判断基準を明確にしたものがミッションです。
バリューとは、組織のメンバーの一人ひとりが大切にする(すべき)価値観です。すべてのメンバーが共通の価値観を持って行動することで、ミッションにしたがった組織としての行動につながり、その結果、ビジョンが現実のものになります。一人ひとりの行動指針や行動規範を明確にしたものがバリューです。
計画作成のためのフレームワーク
ビジョン、ミッション、バリュー、ゴールといった単語は耳にすることが多いものの、その意味するところは曖昧だったり人によって違ったりすることが多い単語ですが、これまでの説明のように、意味のある計画作成にするためには必要不可欠な概念です。そして、人が集まって何かを成し遂げる時に必ず作成するものが計画ですから、計画を作成する際のフレームワーク(枠組み)(図185)として理解しておいてほしいと思います。
参考のために具体的な例を紹介しましょう。あるメーカーでの原価見積もりの仕組みを見直すための社内プロジェクトにおいて、このフレームワークを使って計画を作成したものです。
ゴール:
・6時間以内に材料費と労務費とを合わせた原価見積もりができる
・製品でも部品でも標準原価と実績原価の乖離をリアルタイムで把握できる
シナリオ:
1. 設計者に材料費見積もりを行うツールを提供し、原価グループへの見積もり依頼をなくす。
2. すべての部品の購入価格の記録を参照できるツールを提供する。
3. 場合によっては製品を絞り込んで上記のデータ整備を行う。
4. 生産工程を再定義し、工程ごとに作業時間を記録する仕組みを作る。
5. 記録された作業時間を設計者が参照できるツールを提供する。
6. 場合によっては作業時間記録が可能な工程に絞ってツール対応する。
7. 全部品、全工程に展開するための改善プロジェクトを立ち上げる。
8. 標準材料費、標準作業時間を設定する作業フローと役割を決める。
計画:
5人のメンバーが取り組む6ヶ月の活動計画を作成し、関係部署に対する働きかけや適用範囲を限定するかどうかを判断するタイミングなども明確にしたスケジュールを作成しました。
ミッション:
原価見積もりプロジェクトは、顧客との交渉および利益確保のために最適な原価見積もりを仕組み化する。
バリュー:
・役割分担に関係なくメンバー同士で協力して問題を解決する
・原価見積もりに関することすべてを自分のこととして活動する
・メンバー全員が関係する部署やマネジャーへの働きかけを行う
計画作成にビジョン、ゴール、シナリオというフレームワークを使ってメンバー同士が話し合うことにより、確固とした共通認識を持つことができるというのが大切なところです。
指示通りに作業する、与えられた役割にだけ取り組む、スケジュールを守ることだけを優先する、そんな姿勢で目覚ましい成果を出せるはずがありません。人が集まって何かに取り組むというのは、どのような集団であれ、一人ひとりが最高のパフォーマンスで同じ目標に向かって前進することを目指すはずです。そのためには、このフレームワークを使って計画を作る過程(プロセス)が大切なのです。
経営理念や事業計画に限らず、どのような取り組みであれ、集まったメンバー全員がひとつとなって何かを成し遂げようとするとき、今回紹介したフレームワークを使って計画を作成し、メンバーと共有してほしいと思います。メンバーとの連帯感がより高まるはずです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
●執筆者プロフィール 石橋 良造
日本ヒューレット・パッカード (HP) に入社し、R&D 部門で半導体計測システムの開発に従事した後、設計・製造改革プロジェクトに参加。ここで、HP 全社を巻き込んだ PLM システムの開発や、石川賞を受賞した製品開発の仕組み作りを行い、その経験をもとに 80 社以上に対して開発プロセス革新やプロジェクト管理のコンサルティングを実施。
コンサルティングを続ける中で、より良い改革のためには個人の意識改革も合わせて実施する必要があるとの思いが強くなり、独立して株式会社 RDPi を設立した後、北京オリンピックで石井慧を金メダルに導いた(株) チームフローのコーチ養成コース、および、一般社団法人 日本ポジティブ心理学協会の公式プラクティショナー・コースを修了し、個人のやる気を引き出す技術の開発と、開発プロセスやプロジェクト管理の仕組み改革とを融合した改善活動を続けている。
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