第8回 インサイト・コンサルティング ‐「結」の編

こんにちは、RDPi 石橋です。

前回で、提案スキルの一つである「インサイト・コンサルティング」の提案作成の中核となる「転」プロセスの解説が終わりました。論理的な思考に基づいて提案の土台となるシナリオ原型に、リフレーミングと呼ぶ提案相手の固定観念や思い込みを崩すための感情に訴えるインサイトを組み込むことが必要不可欠だということをお伝えしました。

今回解説する「結」プロセスは、作成したシナリオを実現可能なものにするためのソリューションと、そのシナリオが実現した暁に提案相手やその組織が何を手に入れて、どのような姿になるのかを具体化するプロセスです。

「結」プロセスは、ソリューション作成、ビジョン作成、期待効果定義、ゴール設定の4つのサブプロセスで構成されます。それでは、ソリューション作成から解説をはじめます。

 

ソリューション作成は設計そのもの

前回、インサイト・ワークシートを使って完成させた各シナリオは、顕在化している課題の根本原因を明らかにした上で、インサイトを利用することにより見方や考え方を変えることを通して、その課題が解決できることを確信してもらうというものでした。そして、実際に課題を解決する具体的な手段が「ソリューション」です。通常、一つのソリューションがすべてのシナリオを実現できることはありません。また、各シナリオに対して1対1にソリューションが対応することもありません。複数の方策から構成されるソリューションによって、すべてのシナリオを実現するというのが基本となります。

そして、ソリューション作成において、インサイト・コンサルタントがもっとも重視しなければならないのは、自分がすでに経験があるソリューション、もしくは、所属組織が用意しているソリューションをそのまま提供するのではなく、あらゆる手段を講じてリソースの候補になるものを探し出し、その中からソリューションの構成要素となるものを選ぶことなのです。

 

ソリューションの作成

図1.ソリューションの作成

 
提案相手が抱えている課題とその根本原因は、たとえ似たようなものがあったとしても顧客固有であり、作成するシナリオも提案相手ごとに違うものになるはずです。したがって、それらのシナリオを実現するソリューションも提案相手やその組織ごとに違うものになるのが普通です。事前に用意しているソリューションだけで十分ということはほぼありません。

この図1に示しているように、作成したシナリオをすべて実現するためのソリューションは、ジグソーパズルを完成させるかのように、個別の方策というピースを組み合わせて作成するものです。ソリューション作成は、さまざまな個別の方策を組み合わせて作成する設計行為なのです。

ただし、ジグソーパズルと違って、必要なピースが事前に用意されているわけではありませんから、ソリューションを完成させるには、できるだけ多くの適切な方策ピースを用意することが大切になります。プロダクト・コンサルタントやソリューション・コンサルタントは、自分が持っている、あるいは、組織で事前に用意された個別ソリューションから適切なものを選んで提案しますが、インサイト・コンサルタントは、ソリューションを完成させるためにあらゆる手段をもって適切な方策を探し出し、その中でソリューション全体の組み立てを考えるのです。

候補となる方策の種類は、プロダクトやサービスに限らず、手法や技法、コンセプトや概念、外部の人や組織、他領域の事例や知識など、様々なものが対象となります。見落としがちですが、他拠点の人や実績、自社や自組織が運用している業務、人事、教育などの仕組みも、利点や欠点がよくわかっている利用価値の高い方策の候補になり得ます。

集めた候補方策ピースも、多くの場合は、何かしらのアイデアや機能を追加・拡張したり、組み合わせを考えたりしなければ、ピースを組み合わせただけでは適切なソリューションにはなりません。場合によっては、新たなピースを作る必要があるかもしれません。製品やサービスの設計も、どのようなパーツをどのように組み合わせるのかを考え、何かしら手を加えたり、新たなパーツを作ったりという作業を行うと思います。シナリオを実現するためのソリューションも同じです。シナリオ作成では提案相手の固定観念を崩すことがキーポイントでしたが、よりよいソリューションを作成するには、自分自身の固定観念を崩すことがキーポイントとなります。いろいろな制約や前提条件を外して、方策やその組み合わせ方、利用の仕方を考えることが大切です。

 

ソリューション・カテゴリー

ソリューションは、いろいろな制約を外して検討するものなのですが、徒手空拳の状態になってどのような方策を揃えればよいのかわからないこともあると思います。このような場合には、次に示すソリューション・カテゴリーにしたがって方策候補を検討してみてください。

 

ソリューション・カテゴリー

図2.ソリューション・カテゴリー

 
「道具」とは、プロダクトやツール、サービスといった、カタログリストに載るような具体的な仕様が明確になっているものです。「仕組み」とは、マネジメントや開発・生産プロセスなど、効率的・効果的に業務を運用するための方法論や手法・技法といったものです。そして、「人材」とは、スキルや責任・役割、そして、それらをどのように組み合わせるかという組織・体制といったものです。

この3つのカテゴリーで方策候補となるものを探し出し、その中から適切なものを組み合わせることで、シナリオを実現するためのバランスのとれたソリューションを考え出すためのガイドになるはずです。

以下の図3は、紹介した事例で作成したソリューション・カテゴリーです。キーワードをリストアップしているだけですが、ここでリストアップしている一つひとつについてどのような加工や組み合わせを行い、ソリューションを構成する一要素として機能させるのかを考えていることに注意してください。

 

ソリューション・カテゴリーの作成例

図3.ソリューション・カテゴリーの作成例

 

抽象化プロセスと具象化プロセス

実際にソリューション作成に取り組んでみると、これまでの思考とは大きく違うことに気づくと思います。ここで、提案作成の基本的な思考プロセスを説明しておきたいと思います。

 

抽象化プロセスと具象化プロセス

図4.抽象化プロセスと具象化プロセス

 
この図4の中にインサイト作成のステップは含まれていませんが、提案を作成する大まかな思考ステップを示しています。提案作成の前半は、具体的な課題や現象からその大元となる根本原因を解析するステップで、抽象化という思考プロセスです。そして、ソリューション作成以降は、根本原因に基づいたシナリオを実現するための包括的、総合的なソリューションの枠組み(対策方針)に基づいて必要な施策とその組み合わせを具体化、詳細化するというステップで、具象化という思考プロセスです。

実際はもっと複雑な思考となりますが、とりわけ提案作りは抽象化と具象化という2つの思考プロセスが基本軸となっていることを忘れないでください。この基本軸を疎かにすると、具体的な課題一つひとつに対して、個別のソリューションを用意してしまうという安易な提案になってしまいます。

抽象化と具象化の思考プロセスを基本軸とするために、ソリューション作成の結果を確認するためのソリューション・ワークシートを作りました。このワークシートを作成することで、抽象化と具象化に基づいた具体的なソリューションになっているか、そして、作成したシナリオを網羅したものになっているかを確認することができます。左ブロックと右ブロックの項目について、実際に関係しているシナリオと対策方針を線で結んでください。

 

ソリューション・ワークシート

図5.ソリューション・ワークシート

 
ソリューション・ワークシートについても事例を紹介しておきましょう。ソリューションの中で、黒字で表記しているものは経験のある個別ソリューションで、朱色のものは未経験のものです。個別ソリューション候補から選んだのですから、未経験のものがあるのは当然です。適切なソリューションになることは十分に検討し確認しているものの、実施の際にはチャレンジすることになります。このチャレンジするソリューションがあることで、インサイト・コンサルタントしての成長につながります。未経験の個別ソリューションに対して前向きの姿勢となることも大切なことの一つです。

 

ソリューション・ワークシートの作成例

図6.ソリューション・ワークシートの作成例

 

ビジョンとは

製品開発だけでなく経営計画や人事・採用計画など、会社の中の様々な計画作成においてビジョンを作成することが重要だといわれますが、わかりづらいものの一つだと思います。その原因の一つは、文章作成そのものがビジョン作成の目的となっているからだと考えます。そのような文章を元に、ああでもない、こうでもないと長い時間をかけて議論しても意味がありません。

ビジョン作成とは、実現させたい未来の様子を様々な面から具体化、詳細化する作業です。そうやって、あたかも現実に存在しているかのような未来のイメージを文章化したビジョンであれば、その文章を読んだときにありありと未来のイメージが浮かんでくるはずなのです。

私が最もビジョンを適切に表現していると考えている孫正義氏の言葉を紹介しておきたいと思います。

100 年後の時代にどんな姿、形のものを使っているか。
まるでタイムマシンで未来に行って
その世界を見て帰ってきたように語れる。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で
「100 年後はこうだったよ」
「300 年後の俺たちの生活はこうだったんだ」
まるで見て帰ってきたかのように語れるのがビジョン。

 
手に入れたい未来について、どんな質問があっても明確に答えることができるくらいにその未来を具体化し、その上で、その未来を端的に表現する文章を作ることがビジョン作成の要諦です。

 

ビジョン・ワークシート

そうはいっても、ビジョン作成は簡単ではありません。実際、インサイト・コンサルティングの提案作成ワークショップを実施しているのですが、ビジョン作成は多くの参加者が困惑する工程の一つです。

そこで、マンダラートというフォーマットを利用してビジョン・ワークシートを作成しました。ビジョンを特定の視点から具体化していますが、未来のイメージを多面的に考えるためのガイドになります。ちなみに、ワークショップの参加者からも好意的な意見をいただいています。

 

ビジョン・ワークシート

図7.ビジョン・ワークシート

 
ビジョン・ワークシートは9つのセルから成り、未来の様子を「顧客・マーケット」「付加価値」「固有技術」「競合」「パートナー」「財務」「業務・職場」「学習・成長」の8つの視点で具体的に記述し、その全体を包含した未来のイメージを簡潔に文章化して中央のブロックに記述します。

「顧客・マーケット」には、対象としている顧客やマーケット、そしてそれらとの関係がどうなっているか、「付加価値」には、顧客にどのような付加価値を提供しているのか、「固有技術」には、そのためにはどのようなコアとなる固有技術を有し発展させているのか、「競合」や「パートナー」はどうなっているのか、売上げや利益などの「財務」状況はどうなっているのか、これらのことが実現している「業務・職場」はどのような様子なのか、そして、そのメンバーにはどのような「学習・成長」する機会や場があって、どのようにレベルアップしているのか、といったことを記述します。

そして、中央の「ビジョン」セルの記述内容が、その周りの記述内容と整合が取れて、全体を総合的かつ端的に表現した文章になっているかを確認することが大切です。

インサイト・ワークシートに記述したシナリオ一つひとつについて、ビジョン・ワークシートを作成します。そして、それらのビジョン・ワークシートが全体として整合の取れたものになっていることを確認します。こうすることで、実現する未来のイメージがありありと具体性を持ったものになるはずです。シナリオの一つだけになりますが、ビジョン・ワークシートの作成例を紹介しておきます。

 

ビジョン・ワークシートの作成例

図8.ビジョン・ワークシートの作成例

 

期待効果定義とゴール設定

「結」プロセスの最後のサブプロセスは「期待効果定義」と「ゴール設定」です。

「期待効果定義」は、ビジョンを実現したときに、提案相手やその組織が手にする付加価値の中で、高い価値があることを3~5つリストアップします。「期待効果定義」は定性的な内容でも構いません。

「ゴール設定」は、ビジョンが実現したことを判断するための定量的な指標を定義したものです。ビジョンの実現を客観的に把握するには、どんな指標を見て、その指標がどうなっていればいいのかを考えます。

この2つはいろいろな機会で作成していると思いますので、解説はこのくらいにしておきましょう。

 

 

これまで、起承転結を使ってインサイト・コンサルティングにおける提案作成方法を紹介してきましたが、今回はその最後となる「結」プロセスについて解説しました。方策の可能性になるものを幅広く調査し、それらをどのように加工して組み合わせれば総合的かつ適切なソリューションになるのかを設計することや、手に入れたい未来のイメージを具体化することなど、自由な思考で創造的に取り組むプロセスです。クリエイティブ、かつ、アクティブに取り組むことが、より魅力的な「結」プロセスの実施となるはずです。

次回は、これまでの作業をまとめて提案の形にする最終ステップを紹介したいと思います。

 

RDPi 石橋 執筆者プロフィール
日本ヒューレット・パッカード(HP)に入社し、R&D で半導体テスターなどの製品開発に従事した後、HP全社の開発・製造のデジタル化と仕組み改革にプロジェクト・リーダーとして参加。大幅な開発効率化を実現し、日本科学技術連盟石川賞を受賞。その経験をもとに開発マネジメントやプロジェクト管理、設計プロセスなどのコンサルティングを実施している。
コンサルティングを続ける中で、業務の仕組み改善は、個人の成長を伴うものであるべきとの思いが強くなり、コーチングや心理学を学び、組織と個人の両方に働きかけるコンサルティングを実施するために株式会社 RDPi を設立。組織と個人の両方に働きかけるコンサルティングを実施している。現在、日本ポジティブ心理学協会の理事を務めている。

●株式会社 RDPi : http://www.rdpi.jp/
仕組みと意識を変える RDPi:https://www.facebook.com/rdpi.jp
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Email : ishibashi@rdpi.jp

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