第5回 インサイト・コンサルティング -「転」の編(その2)

こんにちは、RDPi 石橋です。

VUCA 時代に必要だと考えている提案スキルの一つである「インサイト・コンサルティング」について、その中核となる「転」プロセスにおける基本的な姿勢を前回は紹介しました。今回は、「転」プロセスにおける提案というストーリーの主要な構成部品となる、シナリオ作成のための具体的な手法・技法を紹介したいと思います。

「起」プロセスと「承」プロセスとで、提案相手が置かれているビジネスのバックグラウンドと提案相手の思いを分析・整理することを通して、提案相手との基本的な関係構築ができたので、その後の「転」プロセスでは、実際に提案相手の組織に入ってヒアリングを実施したり、関係するデータや文書などを入手したりしているはずです。これらの活動を通じて収集した情報を分析することがシナリオ作成の第一歩となります。

 

要因分析

これまでの努力が実って、提案相手との一定の信頼関係ができ、ヒアリングやデータ、文書などにより、提案相手の組織から相当量の情報を収集できているわけですが、収集できた情報の多さに困惑し、活用する見通しが立っていない状態になることも少なくありません。重要なのは、得られた情報を整理して、起きている問題とその原因との関係を明らかにすることです。この作業を要因分析とよんでいますが、そのための手法をしっかりと身につけておくことが、提案相手が納得できる分析結果につながります。

要因分析にはさまざまな手法がありますが、次に紹介する「特性要因図」「系統図法」「連関図法」「親和図法」の4つを使いこなすことができるようになるのが基本です。これらを使いこなすことで、得られた情報を多面的、かつ、効果的に分析することができるようになります。この4つは「 QC七つ道具」や「新 QC七つ道具」にも含まれるものなので、すでに利用したことがあるものもあるかもしれませんが、それぞれについて簡単に解説したいと思います。

特性要因図法
特性要因図法は、ある解決したい問題(特性)についてその要因を系統的に列挙する場合に有効な手法です。解決したい問題(特性)と要因の関係、および要因間の関係などの理解が容易になります。

インサイト・コンサルティングにおける特性要因図法による要因分析は、主に、社長や事業部長などが言及している課題や、重大な課題と思われるにもかかわらず、あまり情報を得ることができていない課題などを主題に設定して分析します。

下図は、架空のアナログ IC メーカーを想定した特性要因図の例です。特性要因図はフィッシュボーンチャートとも呼ばれていて、魚の骨をイメージして作図します。設定した主題を魚の頭になる一番右側において背骨を書き、その背骨に向かって、4~5個程度の主題を引き起こす大枠の要因を考えて太い骨(矢印)を書きます。次に、その大枠の要因(太い骨)に関連する要因をリストアップし、太い骨に向かって骨を書き加えます。書き加えた要因に関連する要因をリストアップして骨を追加することを繰り返し、要因間の関係がわかるように小骨を増やしていきます。

図1.特性要因図(fishbone diagram)の例

 
得られた情報をもとに要因を考えるわけですが、特性要因図を使うことで得られていないことも要因として思いつきやすくなります。前回解説したように、推測を加えて仮説構築することがシナリオ作成には必要不可欠なことですから、要因を推測しやすいというのは特性要因図法の大きな利点です。

特性要因図法は、要因にフォーカスして分析するという特徴があります。図に示している「納期」や「品質」といった太い骨の一つひとつについて、その要因を洗い出していくわけですが、そうした要因の中には、直接の因果関係となる原因ではないものも含まれます。因果関係はよくわからないものの、データでは相関があるとか、経験的には関係があると感じているというようなものです。つまり、原因は要因の一部でしかないということです。特性要因図は、あくまでも要因の観点で作成するので、広い視野で相互に影響する要因の洗い出しが可能であるという利点もあるのです。

系統図法
系統図法は、「原因-結果」(もしくは「目的-手段」)の関係を系統的に繰り返し展開することで、問題の全体像を明らかにした上で、その原因(もしくは目的を達成するための手段)を追及する手法ですが、要因分析では「原因-結果」の関係しか使いません。明確な因果関係に基づいてブレークダウンを繰り返すので、根本原因となる要因をあぶり出すことが容易になります。

インサイト・コンサルティングにおける系統図法による要因分析は、特性要因図法と同様に、主に、社長や事業部長などが言及している課題や、重大な課題と思われるにもかかわらず、あまり情報を得ることができていない課題などを主題にして分析します。

下図は、架空のアナログ IC メーカーを想定した系統図の例です。設定した主題を一番左に置き、その原因や理由となっていることを主題の右にリストアップして主題からの矢印で結びます。さらに、リストアップした一つひとつについて、その原因や理由となっていることをリストアップして、それぞれを同じように矢印で結ぶという作業を繰り返します。もちろん、収集した情報だけでなく、推測を加えて分析することを忘れないでください。

図2.系統図(systematic diagram)の例

 
原因や理由をリストアップできないレベルまでブレークダウンすることで、設定した主題の根本原因となる候補を洗い出すことができます。また、矢印で原因と結果の因果関係を表現しているので、問題(結果)とその原因の連鎖が把握しやすいという利点があります。

連関図法
連関図法は、原因と結果、目的と手段などが複雑に絡み合った問題について、因果関係や要因相互の関係を図解することで明らかにする手法です。柔軟な記述が可能なため、思考の幅を広げることや、思考を深掘りすることなどが容易になります。

インサイト・コンサルティングにおける連関図法による要因分析は、社長や事業部長などが言及している課題や、重大な課題と思えることなどを書き出すことからはじめます。次に、書き出した課題の一つひとつについて、その原因や理由となることを書き出して矢印で結びます。そして、書き出した原因や理由それぞれについて、さらにその原因や理由となることを書き出して矢印で結ぶという作業を繰り返します。

下図は、架空のアナログ IC メーカーを想定した連関図の例です。一つの要因の原因や理由となる要因はいくつあってもかまいませんし、別の要因の原因や理由として書き出した遠くに置いている要因との関係があるときは、躊躇することなく矢印で結びます。要因間の関係を適切に表現することがとても大切なのです。

図3.連関図(linkage diagram)の例

 
連関図は、フォーマットを気にすることなく、因果関係や要因相互の関係に基づいて要因を洗い出すので、要因間の関係の全体像が把握しやすいという利点があります。また、収集できた情報だけでなく、推測を加えて分析する必要があるわけですが、要因の洗い出しが進んで連関図が成長していく過程で新たな気づきが生まれ、要因の推測が容易になってきます。

さらに、矢印が集中している要因は、多くの要因との関係が強いため、根本原因となる可能性が高い要因だと考えられますし、要因間の結びつきから、根本原因に関係する要因のグルーピングも容易になります。

親和図法
親和図法は、未知・未経験の問題などに代表される、混沌としてはっきりしない問題の構造を明らかにして、問題の根本原因を導き出すのに有効な技法です。インサイト・コンサルティングにおける要因分析は、仮説構築が目的ですから、問題の構造化ができる親和図法は使い勝手がよい手法です。

下図は、架空のアナログ IC メーカーを想定した親和図の例です。親和図法は KJ 法とよばれることもあり、実際に書いたことがある人も多いと思いますが、他の手法と同様に簡単に書き方を説明しておきます。

まず、収集した情報を一つひとつの事柄や要因に分解して書き出します。書き出す過程で、要因として推測できることがあれば、それも書き出します。次に、書き出したものを眺めて、類似しているものを一つのグループにして、そのグループにタイトルをつけることを繰り返します。すべての要因についてグルーピングとタイトル付けをした後、グループ間の因果関係や相互関係を表現します。相互に関係するグループは因果関係に基づいて矢印で結んだり、包含関係があるグループは、グループの中にグループを入れたりというような作業です。

図4.親和図(affinity diagram)の例

 
親和図を書くことで、事柄や要因を類似性(親和性)に基づいてグルーピングし、グループ間の関係を明らかにすることができ、それにより混沌とした情報から問題とその要因の全体構造を明らかにすることができます。収集できた情報だけでなく、推測も要因として加えることで、問題の構造がより明確になり、まさに仮説構築ができ、問題とその要因を立体的に把握し、根本原因を導き出すことが容易になります。

 

根本原因分析と仮説構築

主要な4つの要因分析の手法について解説しました。ある課題について、要因の洗い出しが不十分であれば特性要因図法、原因が曖昧であれば系統図法、要因間の関係が複雑であれば連関図法、そして、頭の中が混沌としているのであれば親和図法を使う、というように、状況に応じて手法を使い分けることが大切です。まずは、4つの図法を使いこなせるようになって、さらに、自分なりに各図法の使い方を工夫することを目指してください。

膨大な情報を相手にする要因分析では、図作成に集中するあまり目的を見失い、図を作成することが目的となってしまう、ということにならないよう注意してください。要因分析は、得られた情報を整理し、推測を加えた上で、提案対象の組織で起きている問題の全体像である仮説構築を行う行為です。そのために、ヌケ・モレがないように要因を洗い出したり、要因間の因果関係を明らかにしたり、要因を層別したりしているわけですが、要因分析は、対象の組織における問題の根本原因を明らかにすることが最終目的であることを忘れないでください。

要因分析をやっている時は、組織の問題がどのような要因の連鎖によって引き起こされているのか、その連鎖の大本となる根本原因は何かを説明できるようになっているか、ということを常に自分に問いながら作業することが大切となります。

この連載を通して言い続けていることですが、情報収集ができた時点で、繰り返し要因分析をアップデートすることも忘れないでください。仮説構築はスクラップアンドビルドなのですから、新しい情報を手に入れる度に要因分析を繰り返すことが肝要です。そして、要因分析を繰り返す際には、以前の要因分析の内容を確認することになるので、要因分析結果はその都度、文書として残しておくことも大切なことです。要因分析の内容を文書として残すことは、分析結果をチームメンバーと共有したり、関係者にレビューしてもらうときにも役立ちます。
 

 

今回紹介した要因分析手法は、目にしたことや利用したものもあるかと思います。ただ、トレーニングの一環で数回作成しただけだったり、偏ったやり方になっていたりするかもしれませんので、今回紹介した4つの手法を使用する状況を想定して繰り返しやってみてください。やる度にいろいろな気づきがあるはずです。

今回は、「転」プロセスにおける重要な作業の一つである要因分析手法の紹介でしたが、「転」プロセスの最終的な目的は、提案のためのストーリーの中核部品となるシナリオを作成することです。次回は、そのシナリオ作成に欠かせない、もう一つの重要作業であるインサイト作りを紹介したいと思います。

 

RDPi 石橋 執筆者プロフィール
日本ヒューレット・パッカード(HP)に入社し、R&D で半導体テスターなどの製品開発に従事した後、HP全社の開発・製造のデジタル化と仕組み改革にプロジェクト・リーダーとして参加。大幅な開発効率化を実現し、日本科学技術連盟石川賞を受賞。その経験をもとに開発マネジメントやプロジェクト管理、設計プロセスなどのコンサルティングを実施している。
コンサルティングを続ける中で、業務の仕組み改善は、個人の成長を伴うものであるべきとの思いが強くなり、コーチングや心理学を学び、組織と個人の両方に働きかけるコンサルティングを実施するために株式会社 RDPi を設立。組織と個人の両方に働きかけるコンサルティングを実施している。現在、日本ポジティブ心理学協会の理事を務めている。

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