第4回 インサイト・コンサルティング -「転」の編(その1)

こんにちは、RDPi 石橋です。

VUCA 時代に必要だと考えているスキルの一つである、「インサイト・コンサルティング」という提案スキルを紹介していますが、前回の「承」プロセスに続いて、今回は「転」プロセスについて解説します。

「起」プロセスと「承」プロセスとで、提案相手が置かれているビジネスのバックグラウンドと提案相手の思いを分析・整理することを通して、提案相手との基本的な関係構築ができ、相手の懐に入ることができるようになりました。これから先は、実際に提案相手の組織の中でヒアリングやデータ収集を行い、提案相手の組織内で起きていることを分析し、インサイト(洞察)に基づいた提案を作成することになります。外部の顧客であれば、いわゆるアセスメントを実施するということです。

 

シナリオ作成

インサイト・コンサルティングにおける提案プロセスは、第一回「VUCA時代に必要なコンサルティング・マインド」の中で起・承・転・結の各プロセスにより構成される「ストーリー」を作るということを解説しました。「転」プロセスは、「ストーリー」の土台となる最も重要なプロセスで、その基となる「シナリオ」を作成することが目的です。

シナリオは、提案相手の組織内部で起きていることを観測し、どういう問題が起きているのか、その問題を引き起こしている根本原因は何なのか、そして、その根本原因を解消するためにはどういう対策が必要になるのかを明らかにしたものです。組織内部で起きている問題の多くは、ほとんどが多種多様で複雑なので、いくつかの視点で複数のシナリオを作ることになります。

シナリオ作成では、課題分析や対策立案が重要なのはもちろんですが、すべての作業が「仮説構築」という枠組みでの行為であることを認識することが必要不可欠になります。

「転」プロセスにおいても、提案相手の組織内部の状況をたっぷりと時間をかけて調査、分析することは相手に負担を強いることになり現実的ではないので、得られた情報やデータを元に相手の組織で起きていることや、その原因となることを推測することが必要になります。観測できた事実と推測を含む課題設定とその原因となることの因果関係を分析し、根本原因を明らかにする。これが仮説構築です。推測と事実を合わせて、提案相手の組織の問題構造を明らかにするということです。

 

スクラップアンドビルドによる仮説構築

問題を解決するためにプロダクトやソリューションを提案するスタイル(プロダクト・コンサルタント、ソリューション・コンサルタント)では、顧客が抱えている問題の一部に対する解決策の提案しかできません。しかし、提案相手のビジネスを効率的、効果的に向上させるためには、より広範囲に複雑に絡み合った問題に取り組むことが必要になります。組織内部では様々な人が様々な役割を担い、様々な思いを抱え、それらが複合的に絡み合って具体的な課題となって顕在化しています。どのような問題がどのように絡み合っているのか、組織における問題の構造を明らかにすることが仮説構築なのです。

仮説構築

図1.仮説構築

このどちらの図も、組織の問題構造を三角形であらわしています。

左の三角形で示しているのは、入手できる情報は組織で起きている問題やその原因と考えられることの一部であり、それに推測を加えることで問題構造の三角形を作るという仮説構築です。

同じことを、右の三角形では違う形であらわしています。ヒアリングなどの調査は、相手組織の課題やそれに関係する事柄を別個に把握することであり、それらの中には問題構造にあまり関係ないことがあるかもしれないし、問題構造を構成する他の要素・要因とどのような関係なのかはわからないかもしれません。把握できた個別の事柄に推測を加えることで、隙間を埋め問題構造の三角形を完成させるのです。

さらに、仮説構築作業はスクラップアンドビルド方式であることも重要なポイントです。「転」プロセスでは相手組織に入ってヒアリングやデータ収集をすることで、より具体的なことを調査するわけですが、相手組織の人たちは自分の仕事で忙しいので、何人もの人たちに話を聞くことはできませんし、話を聞く相手の都合で調査は断続的になるかもしれません。それに、「起」と「承」プロセスでも情報収集していることを忘れてはいけません。つまり、段階的に相手の情報を収集してきているし、これからも収集し続けることを前提にしなければいけないということです。

また、段階を経て情報収集することには大きなメリットもあります。各段階で、相手の問題をどのように捉えているのか、すなわち、各段階で仮説構築を行い、それを提案相手のオーナーである社長や事業部長に伝えることで、有効なフィードバックをもらえます。さらに、オーナーとの信頼関係をより強固なものにすることができるのです。

下図はその様子を示してします。情報入手の度に仮説構築し、それを伝えることで、より正確な問題構造を作るための情報を得ることができます。「起」プロセスや「承」プロセスの段階から情報収集できたタイミングで繰り返し問題構造を作ることが、より効果的な仮説構築を行うためのカギです。

仮説構築ステップ

図2.仮説構築ステップ

段階的に仮説構築をするという作業は、仮説を積み重ねるというよりも、毎回作り直す、スクラップアンドビルドと考えるのが現実的です。したがって、仮説構築には、毎回スクラップアンドビルドを繰り返す覚悟が必要だということです。人間は、効率的に結果を導き出すことを重要視する傾向があり、スクラップアンドビルドを嫌う人が多いように思いますが、シナリオ作成における仮説構築は、スクラップアンドビルドであることを強く意識して実践することがとても重要です。スクラップアンドビルドを繰り返すことは、創造性を高め、固定観念にとらわれない思考スキルを向上することに役立ち、VUCA 時代といわれる現代において必要とされる分析スキルを身につける価値ある機会なのです。

 

表層的課題と深層的課題

ヒアリングの経験がある人の中には、相手からの情報を効率的に最大限聞き出そうと、事前に聞くことを考え、チェックリストを作ってヒアリングに臨んだ人もいると思いますが、もっと大切なことがあります。

それは、表面的なことからより深いことを聞き出すということです。こちらの質問に対して相手が答えてくれる内容は、得てして、顕在化している表面的、表層的な事柄が多いものです。したがって、チェックリストや質問票を事前に作ってヒアリングすると、網羅的ではあっても、表面的、表層的なことを聞くだけになってしまいがちです。

シナリオ作成で大切なことは、組織が抱えている問題の根本原因を明らかにすることですので、表層的なことからその深層に迫ることを聞き出すことが大切です。図にあらわしているように、組織内部で起きている問題は、氷山の一角でしかありません。つまり、見えていることはほんの一部であり、問題を引き起こしている多くの原因は、水面下のより大きな部分に隠れているのです。この隠れている問題や事象を聞き出すことが大切なのです。

表層的課題と深層的課題

図3.表層的課題と深層的課題

私は、顕在化している課題を「表層的課題」、その下に隠れている課題を「深層的課題」といっているのですが、ヒアリングの目的は後者の深層的課題を把握することです。深層的課題を把握するためには、氷山の見えているところから水面下の深いところに降りていくというヒアリング方法が必要です。実は、氷山の見えているところのどこからであっても、下へ下へとたどっていけば、たどる経路は違っていても水面下の深いところにたどり着くことができるのです。

表層的課題を聞いて、その原因や関連を繰り返し聞くことで、深層的課題を聞き出すのですから、そのための質問を事前に用意しておくことはできません。表層的課題を深掘りするための質問は、相手の返答の度に考えるしかないからです。しかし、前述のように、どの表層的課題から入っても必ず深層的課題にはたどり着くことができるので、ヒアリングは網羅的なことを聞くのではなく、部分的であっても具体的なことを深く深く聞くことを心がけてください。

 

スキル獲得には実践することが大切ですので、自分の組織の問題構造に対する仮説構築をやってみることをお勧めします。そして、マネジャーやリーダーにヒアリングして、自分でも気づいていなかった深層的課題を聞き出して仮説構築すると、効果的な練習になります。ぜひ、トライしてみてください。

「転」プロセスは、インサイト・コンサルティングでの提案におけるもっとも重要なプロセスですから、これから何回かに分けて解説したいと思います。今回は、シナリオ作成に関する心構えとも言える基本的な姿勢についての紹介でしたが、次回からは、シナリオ作成のための具体的な手法・技法を紹介する予定です。

 

RDPi 石橋 執筆者プロフィール
日本ヒューレット・パッカード(HP)に入社し、R&D で半導体テスターなどの製品開発に従事した後、HP全社の開発・製造のデジタル化と仕組み改革にプロジェクト・リーダーとして参加。大幅な開発効率化を実現し、日本科学技術連盟石川賞を受賞。その経験をもとに開発マネジメントやプロジェクト管理、設計プロセスなどのコンサルティングを実施している。
コンサルティングを続ける中で、業務の仕組み改善は、個人の成長を伴うものであるべきとの思いが強くなり、コーチングや心理学を学び、組織と個人の両方に働きかけるコンサルティングを実施するために株式会社 RDPi を設立。組織と個人の両方に働きかけるコンサルティングを実施している。現在、日本ポジティブ心理学協会の理事を務めている。●株式会社 RDPi : http://www.rdpi.jp/
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Email : ishibashi@rdpi.jp

 

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