第9回 インサイト・コンサルティング – ストーリー作成の編
2022年04月06日こんにちは、RDPi 石橋です。
VUCA 時代には、誰もがコンサルタントとしてのスキルを持つことが大切であること、そして、コンサルタントの中でも大きなスコープ、大きな成果につながる提案ができるインサイト・コンサルタントとしてのスキルを目指すことが大切だということを提唱し、そのための大切なスキルの1つである提案作成の考え方や具体的な方法を伝えてきた連載も、今回が最後となります。
これまでの提案作成プロセスの中で作成してきたいくつもの成果物から、1つのストーリーを作ることが今回のテーマです。提案書やプレゼンのための骨子、あるいは、枠組みを作るということです。明確なロジックにもとづいた流れになっていることに加えて、提案相手の感情に訴えるストーリーを作成することが狙いです。
ストーリー
連載の初回で紹介した「インサイト・コンサルティング・プロセス」に従って、これまで様々な成果物を作成してきました。これで、ストーリーを構成するストーリー部品が揃ったということなのですが、ここで一度その概略を振り返り、ストーリー設計に進みます。
いくつかの要因分析手法を使って、広い視野で提案相手のビジネスや組織の現状を分析することがスタートでした。ビジネスがどのような状況下にあるのか、組織にどのような問題が起きているのか、そして、問題の原因がどこにあるのかといったことを明らかして、提案相手からの興味・関心を得ることで相手の懐に入ることを狙いました。
次に、相手の懐に入ることでヒアリングや調査をしたわけですが、そこに多くの時間をかけてしまい相手に必要以上の負担をかけることは避けたいので、自分のこれまでの経験やできる限りの情報収集努力によって足りないものを推測しながら、提案相手のビジネスや組織で起きていることを論理的に説明できる仮説を構築しました。この仮説によって、提案相手が断片的に考えていたことや、重要度が明確にはなっていなかったことなどを含めた、現状の課題とその根本原因の全体像を明らかにし、相手と現状認識や価値観が共有できていると示すことを狙いました。
そして、これらの分析結果と推測を含む仮説をもとに、新たな問題のとらえ方や解決の切り口を見つけ出し、提案相手のビジネスや組織における問題の根本原因、このまま問題を放置した場合の結末、そして、そうならないための解決方法を示すいくつかのシナリオを作りました。問題認識と解決方法のロジックに加えて、相手の思い込みや固定観念を崩す「インサイト」を使って提案相手のリフレーミングを引き起こし、このままでは大変なことになるという焦燥感と、目から鱗が落ちるような解決のための気づきを与えることを狙いました。
このようにして作り込んだ材料を使ってストーリーを作り上げるのが最後のステップとなります。1つのストーリーにすることで、提案相手は、ずっと悩んでいた問題が解決することに感動し、手に入れることができる未来と、そのための方法を提案してくれるあなたに大きな期待をすることになります。
ストーリーの設計
それでは、実際にストーリーを設計する方法を紹介しましょう。ストーリー設計の第一歩は、ストーリー全体を大局的に見て、全体の流れがスムーズで相手の感情に訴えるものになる骨格を作ることです。以下は、連載初回に紹介した提案作成プロセスで、これまでに、このプロセスに従ってストーリーを作るために必要な部品を作ってきました。
これまでに作ったストーリー部品を取捨選択し、相互の結びつきを検討しながらストーリーを作ります。この作業のために用意したのが「ストーリーボード」です。
起承転結の「起」「承」にあたる上段ブロック、「転」にあたる中段ブロック、そして、「結」にあたる下段ブロックと大きく3つに分かれています。上段ブロックは、ビジネス状況、トップの思い、自組織の強みの3つのセクションから成り、提案相手のビジネスや組織の現在の状況、そして、提案相手の望みや思いを記述します。中段ブロックは、インサイト・シナリオをベースにして、現状課題、根本原因とその対策方針、解決のためのソリューションを記述します。下段ブロックは、ソリューションを実施した後の未来を表現したビジョン、そのビジョンが実現したことを確認するためのゴール指標、そして、手に入る具体的なメリットを記述します。
ストーリーボードという1枚のワークシートにストーリーの骨子を記述することで、全体の流れや訴求するポイントに加え、ストーリー全体とその部品の整合性や妥当性を一度に設計、検討、確認することができます。そして、ストーリーを設計することで、その部品となる分析結果やワークシートを見直す必要が出てくる可能性があり、その時は、躊躇することなく分析結果やワークシートを見直すことが大切です。この見直しを繰り返すことでストーリーの完成度を高めることになるのです。そのために、先に紹介した提案作成サイクルの図は「サイクル」となっているのです。
ストーリーボードの構成要素
参考情報として、これまでにやってきたことがストーリーボードのどの部分になるのかがわかるように、作成してきたワークシートなどの成果物とストーリーボードとの関係を図示しておきます。
PEST分析、競争要因(ファイブフォース)分析、SWOT分析、そして、図には描いていませんが、提案相手へのインタビューは、上段ブロックを作成するための材料になります。次に、親和図法などの要因分析手法やデータ分析によって課題と根本原因・対策の仮説を構築した後(この連載では、図にある仮説・提案ワークシートは作成しませんでしたが)、インサイト・ワークシートを使って作成したインサイト・シナリオに加えて、そのシナリオを実現するソリューションを具体化するために作成したソリューション・ワークシートが、中段ブロックを構成する材料になります。そして、ソリューションを実施することで手に入れられる未来像を多面的に記述したビジョン・ワークシートと、並行して作成したゴールと期待効果の定量指標が下段ブロックの材料になります。このように、これまでにやってきた作業はすべて、ストーリーを作ることへと集約されるのです。
ストーリーボードの作成例
それでは、実際にストーリーボードがどのようなものになるのか、アナログ半導体開発での作成例を紹介しておきます。
この作成例でわかるように、ストーリーボードはあくまでもストーリーの骨子を記述しているものなので、個々の詳細は、元になっているワークシートなどを見ることになります。たとえば、ストーリーのポイントとなるインサイト・シナリオの詳細は、インサイト・ワークシートを見ることになります。したがって、チームで作業する際や、ストーリーをレビューする際には、ストーリーボードと作成した成果物のすべてを準備しておく必要があります。そして、繰り返しになりますが、ストーリー部品であるインサイト・シナリオやソリューションなどを見直して修正することに躊躇せず、よりよいストーリーにすることを最優先としてください。
インサイト・コンサルティングは、ビジネス成果に直結するとても価値のある重要なことを対象にしたコンサルティングですから、その提案という行為は、相手にとっても、あなたにとっても真剣勝負です。ストーリーが魅力的、効果的なものでなければ、提案書の見栄えやプレゼンにどんなに力を入れても中身の伴わない提案内容になり、相手に受け入れてもらうのは難しいのです。だからこそ、ストーリーボードで整合性のあるロジカルな流れになっていることに加えて、相手の琴線に触れる感情に訴えるポイントがしっかりしたストーリー骨子ができていることが、この後の提案書作成やそのプレゼンを成功させるための大前提となります。
ストーリーボード作成後
ストーリーボードを作成した後は、提案書を作成し、プレゼン資料を作ることになります。提案書やプレゼン資料の作成については、図やグラフなどの図解技術と、言葉や表現などのコピーライティング技術が重要だと考えていますが、たくさんのノウハウがインターネットや書籍で紹介されているので、自分に合ったものを探して参考にしていただければと思います。
また、提案の際には、ソリューション実施の具体的な段取りやスケジュールを考えておく必要があります。これは、何かを実施するための計画作成と同じ作業ですので、プランニングの考え方や方法として別の機会に紹介したいと思います。
全9回に亘って解説してきた、インサイト・コンサルティングにおける提案作成方法、いかがだったでしょうか?
VUCA 時代は、状況の変化に対応すること、他者に働きかけること、そして、そのために常に自分が成長することが求められており、それは、誰もがコンサルタントとしてのスキルを身につけることと言ってもいいと考え、今回の連載としました。「提案作成」というコンサルタントに要求されるスキルの1つに過ぎないものですが、分析方法などの特定の作業についての書籍や情報はあるものの、提案作成全体の考え方やプロセス、そして、その過程での技法・手法の活用方法をまとめたものはないと思うので、参考にしていただけると幸いです。
全体を通じて質問などありましたら、ishibashi@rdpi.jp までご連絡ください。また、各種ワークシートの作成などの演習を実施し、参加者に個別にフィードバックするというワークショップも実施し、好評を得ていますので、ご興味があれば、以下のボタンからフォームに入力し、直接お問い合わせいただければと思います。
インサイド・コンサルティングに興味を持ち、実際に手掛けてみて、ご自身の業務に活用される読者様がいらっしゃれば嬉しい限りです。ではまた、別の機会にお会いしましょう。
執筆者プロフィール 日本ヒューレット・パッカード(HP)に入社し、R&D で半導体テスターなどの製品開発に従事した後、HP全社の開発・製造のデジタル化と仕組み改革にプロジェクト・リーダーとして参加。大幅な開発効率化を実現し、日本科学技術連盟石川賞を受賞。その経験をもとに開発マネジメントやプロジェクト管理、設計プロセスなどのコンサルティングを実施している。 コンサルティングを続ける中で、業務の仕組み改善は、個人の成長を伴うものであるべきとの思いが強くなり、コーチングや心理学を学び、組織と個人の両方に働きかけるコンサルティングを実施するために株式会社 RDPi を設立。組織と個人の両方に働きかけるコンサルティングを実施している。現在、日本ポジティブ心理学協会の理事を務めている。 ●株式会社 RDPi : http://www.rdpi.jp/ ●仕組みと意識を変える RDPi:https://www.facebook.com/rdpi.jp ●やる気の技術:https://www.facebook.com/motivation3.0 ●Email : ishibashi@rdpi.jp |