技術とデザインとの融合から生まれた、まったく新しいサウンドプロダクト

 
2月某日、ケイ・ピー・ディの加藤木代表よりメールをいただき、「東京ビジネスデザインアワード(以降TBDA)」の最終審査があるので同社枠からClub-Z編集局を登録しましたとのこと。そういえばエントリーされていたなと思い出したのですが、日程的にはもうすぐではありませんか! とはいえせっかくのご招待ですので、各所調整の上参加することにしました。

TBDAとは、東京都の産業労働局と、あの「グッドデザイン賞」を手掛ける公益財団法人 日本デザイン振興会とが連携して企画・運営しているコンペティションであり、都内のものづくり中小企業が持つ技術や素材とデザイナーのマッチングを通した新規ビジネスの実現を目的としています。TBDAでは、商品化・事業実現化をめざし、知財戦略、デザイン契約、販路開拓支援などをおこなっています。

さて、審査当日の2月9日、普段行き慣れない六本木に到着した編集局は、キョロキョロしながら東京ミッドタウン・カンファレンスに向かいます。会場フロアに上がると、加藤木代表とケイ・ピー・ディの皆さんがいらっしゃったので、ぜひ頑張ってくださいとお声掛けしました。受付でプレスバッジをいただいて着席すると、200㎡超の部屋はほぼ満席でした。

いよいよ開会、動画収録用の業務用カメラ、プロ司会者が入り、都の産業労働局から挨拶があるなど、格式高い雰囲気で進行していきます。日本デザイン振興会から、企業からは技術・素材の提案に留め、デザイナーはテーマを読み解いて企業に対し提案行ったこと。設定された10テーマのうち9テーマに対し計84件の応募があったこと、そして各テーマに対する最良の提案を企業側が選定し「テーマ賞」とし、今日はそのテーマ賞受賞者によるプレゼンテーションが行われる旨などが説明されました。
審査委員紹介の後、事前のくじ引きによって決められた順に、デザイナーによるプレゼンテーションが行われていきます。「さまざまな生地に圧着可能な素材を、温・冷感、防水、防虫、防汚などの機能ごとにアイコン化し、色調で表現する」「貼箱製造で培った技術および加工設備を、絵本やゲームといったコンテンツを結び付けて訴求する」といったさまざまなアイディアが、5分という短時間の中で説明されていきます。

そしていよいよケイ・ピー・ディ社が設定したテーマ「はんだ付け不要の基板ジョイント導通技術」の番となり、それに対する提案の中で最も魅力的だったという、建築家、エンジニア、ビジネスアーキテクチャーなどからなるデザインチーム「デデデ」によるプレゼンが始まりました。はんだ付け不要の導通技術による成果物としては、前回記事で同社によるLEDCubeを紹介しましたが、今回TBDAにおいて、この技術を使ったまったく別の新しいプロダクトが提案されました。それが、「歯車によってさまざまな音が出せるサウンドプロダクト」です。

提案名は「プリント基板の新しい使い方を提案するサウンドプロダクト」

 
各歯車に音色がアサインされており、組み合わせで音のコラージュを作ることができます。写真は当日展示されていたプロトですが、ギアに描かれている通り、左上であれば「踏切の警報音」、右下であれば「猫の鳴き声」といった音が入っています。ツマミを持って回すことで6枚のギアが連動して回転し、本体側とギア側とで導通したタイミングで鳴るようになっています。なお、両方にパターンを描くのはコスト面でネックになるため、どちらか一方にすることを検討中とのことです。また、オリジナルのギアに、自分で録音した音をアサインさせるためのアプリも開発検討中とのことでした。

9テーマそれぞれ魅力的で、複数の審査委員から「今回の審査が一番難しかった」との声が挙がりましたが、結果としてケイ・ピー・ディ社のこのテーマが第11回TBDAの最優秀賞を受賞しました。審査委員からは「課題の難易度とプロダクトの完成度、発想を短期間でプロダクトに起こした技術力と新規性。今までにない新しい遊びの在り方や、カルチャーをも生み出す可能性にあふれた提案で、今あるモノの見方をデザインの視点で転換した好例」とのコメントがありました。

授賞式での田村氏・加藤木氏(左、中央の二人)と、チーム「デデデ」の皆さん(右)

 
訊けば、このプロダクトの設計にもCR-8000 Design Forceが使われているとのことでしたので、加藤木代表にその活用方法などを伺ってみました。

「このTBDAで、ご縁があってチーム『デデデ』の素晴らしいデザイナーさん4人と協業し、プロトタイプの製作をしました。おかげで、Design Forceを使った取り組みで良い結果につながりました。

普段の取引先であるメーカさまの回路設計部門と比べ、よりプロダクトの全体像を見ているデザイナーさんとのやり取りは貴重な経験となり、私達のスタンスも請負ではなく共同開発の視点が求められ、ものづくりの楽しさを改めて実感しました。基板の詳細を説明しながらの取り組みで、さらには1ヶ月という短期間でのプロトタイプ完成という難題がありました。
そんな環境の中で、Design Forceの効果的な活用機能はやはり3D表示と、3Dデータの出力でした。
3D表示は、Webミーティングで手軽に利用でき、イメージを共有し伝えやすいので、誤解が少なく大変助かりました。また3Dデータ出力は、表示では伝わりづらい細かな部分はデザイナーさん側の使い慣れた環境に取り込み、それを確認することで課題共有が効率よくでき、短納期開発につながりました。

3Dデータを活用したWeb ミーティング

 

3D表示(左)と、基板イメージのPDF出力(右)

 
基板設計者がこのように、請負でなく開発側に入り込むスタイルはさまざまな観点で今後非常に重要になってくると考えています。そのような環境変化の中で気になっているのが、CR-8000とMBSE(Model-Based Systems Engineering)との連携です。開発初期段階での抽象度の高い要求を、どうやって仕様に落とし込んでいくかなどについて、違う分野の知見をもったデザイナーさんや当社のエンジニアなどの意見をまとめて、開発を効率よく進めることができるのではと期待をしています。弊社は、創業から図研CAD一筋ですが、また提案と宿題をいただいたように感じます。
最後になりますが、このプロトタイプ開発で協力をいただいた、基板工場・実装工場・3Dプリントの皆さま、複雑形状でありながら短納期のご対応をいただき、本当にありがとうございました。今後は、デデデの皆さんと力を合わせてものづくりを進めて行きたいと考えています」。

また、今回の画期的な提案を行った「デデデ」の代表 田村 匡將氏に、受賞を経て事業化を目指すにあたって構想されているプランなどを伺ってみました。
「製品化に向けての課題は山ほどあります。ソフトやハードの追求、音楽的な研究、また事業化にあたって極めて大きな壁である資金繰りなど、それぞれの課題を1つずつ解決しなければ事業として成り立ちませんので、ケイ・ピー・ディさんと一緒に頑張っていきたいと思っています。一方で、この4ヶ月の間デザインの視点で会話をしていたところ、本提案以外の技術や製品、会社の体制などにもデザインの力を活用できるのでは、という話をいただき、ケイ・ピー・ディさんと、これからもより強く肩を組んで歩んでいけると考えています」。

自称ミュージシャンの編集局もこのプロダクトには大いに魅了され、「BPM表示と自動回転、エフェクトの追加もお願いします。私、これ●万円で買います」と、熱い想いを語ってきました。実際にこのプロダクトが世に出て、いじり倒すことができる日が来ることを楽しみにしています。

※本記事内での「もの(ひらがな)づくり」は、主催者による表記のままとしました。

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