第3回 LTE無線端末のMIMO OTA測定

 
スマートフォン(スマホ)/IoT(Internet of Things)機器に搭載されているLTE(Long Term Evolution)の無線性能を評価する手法として、OTA(Over The Air)測定を前回ご紹介しました。
今回は、MIMO(Multi-Input Multi-Output)の評価で実施されるMIMO OTAをご紹介します。

※本記事は、2015年にClub-Zに掲載された記事を、今回テーマに合わせて最新内容に更新しています。
 
スループット評価へ
スマホ登場と共に、通信は3Gから4G(LTE)通信へ切り替わりました。これにより携帯電話の主な機能は通話からデータ通信へ切り替わり、ユーザは動画やゲームをするようになってきました。このような携帯端末の無線通信は、単一のアンテナ通信SISO(Single Input Single Output)方式から、複数のアンテナを組み合わせたデータ通信MIMO(Multi Input Multi Output※通称マイモ)方式へ変わることで、劇的に通信速度(スループット)が改善されてきています。これに伴い、通信速度も無線性能評価として必要となり、携帯電話の進化と共にOTAも進化し、スループットの試験も実施されています。
携帯端末の無線通信での方式の変化

図1:携帯端末の無線通信での方式の変化

 
通信速度は、電波環境によって変化します。例えば、都市部や郊外、電車や自動車で移動中、色々なシチュエーションで変化します。このように、無線通信で届く電波の強弱が何らかの理由により変動することをフェージングといいます。
さまざまな伝搬環境下でのスループットの試験を実施する、MIMO OTA。そのシステムをご紹介します。
 
「フェージングエミュレータ型」
電波暗室を用いて動的なフェージング環境を生成するシステムです。また評価端末を囲むようにOTAアンテナを複数配置することで、伝搬環境のフェージングや遅延、振幅・位相を変化させて様々な環境モデルを生成することなどが可能となっています。
 
フェージングエミュレータ型システムの概略図

図2:フェージングエミュレータ型システムの概略図

 
フェージングエミュレータ型システムのイメージ図

図3:フェージングエミュレータ型システムのイメージ図

 
MIMO OTAの性能は、試験端末のMIMOアンテナ性能によります。携帯電話のMIMOアンテナは、受信アンテナ2本で構成されています。携帯電話のMIMOアンテナ性能は、その2本の受信アンテナの利得差と相関で決定し、利得差は少なく、相関の低い方が性能は良好となります。
実際に「フェージングエミュレータ型」のMIMO OTA測定の測定結果が電子情報通信学会で報告されています。MIMOアンテナ性能が異なる試験端末A/B/Cを用いた(性能差:A = B > C)場合、通信速度にも同様に差が出てきています。MIMOアンテナ性能が等しい端末A,Bと、性能がそれより劣る試験端末Cを使って測定を行った結果、電波状況の変化に対して通信速度にも同様な差(電波状況が悪くなると、性能が劣る端末の方が通信速度が遅くなる)が見られました(グラフ1) 。「フェージングエミュレータ型」のMIMO OTAが非常に正確で有効であることが分かる結果です。
 
スループット試験結果の例

グラフ1:スループット試験結果の例
※ 出典:RFワールド No.37

 
3種類の端末の、アンテナ性能の違い

表1:3種類の端末の、アンテナ性能の違い
※ 出典:RFワールド No.37

 
その時のアンテナ性能の差分も示します(表1)。アンテナ性能とスループットの相関性が見えます。
下図に、MCSを変化させた場合の、端末の受信電力とスループットの比較を示します。
 
MCSを変えた場合のスループット変化

グラフ2:MCSを変えた場合のスループット変化
※ 出典:RFワールド No.37

 
MCSとは、変調方式と符合化率の組み合わせです(3GPP TS 36.213, “Physical layer procedures”)。MCSの値が増加するに従い、高いスループットが得られていることがわかり、またその場合は、高い受信電力が必要なことがわかります。MCSは低い値から高い値に向かいQPSK→16QAM→64QAMと変化していきます。一方で、低いスループットは、広い範囲でカバーされていることも分かります。
次に、「ランダムフィールド法」による、スループット試験の概略を示します。
 
「ランダムフィールド法」
 
ランダムフィールド法の概略図と実機イメージ

図4:ランダムフィールド法の概略図と実機イメージ

 
前回記事で示した時と同様に、反射環境下にデバイスを配置し、受信電力に対して、スループットを評価することができます。
昨今は、さらなる通信速度向上のために、キャリアアグリゲーション(CA: Carrier Aggregation)という技術を用いています。
キャリアアグリゲーション(CA: Carrier Aggregation)とは、複数の異なる周波数を束ねて、一つの通信回線としてデータをやり取りする方法で、一つの周波数に比べ複数の周波数となることから、スループットが2倍以上になります。
基本的な2波を組み合わせて使用する場合は2CC CA(2 Component Carrier CA)と呼ばれます。
 
キャリアアグリゲーションの例(2CC CA)

図5:キャリアアグリゲーションの例(2CC CA)

 
下のグラフは、キャリアアグリゲーション時のスループットの変化です。PCC(Primally Component Carrier)のみの場合に比べて、キャリアアグリゲーションでさらに高いスループットが実現できていることがわかります。
 
キャリアアグリゲーション時のスループット変化

グラフ3:キャリアアグリゲーション時のスループット変化

 
まとめ
2回に亘り、OTA測定のTRP/TIS評価、スループット評価についてご説明してきましたが、LTE/5Gが搭載されるデバイス(IoT機器、車など)が増加し、OTA測定がより重要性を増してきている中で、それらの概要を押さえていただく一助となれば幸いです。
次回は、5Gでも運用が開始されてくる、ミリ波帯について解説いたします。
 
 

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