第3回 インサイト・コンサルティング -「承」の編

こんにちは、RDPi 石橋です。

VUCA 時代に持ってもらいたいコンサルティング・マインドの一つである、「インサイト・コンサルティング」という提案スキルを解説していますが、前回の「起」に続いて、今回は「承」のプロセスについて解説します。

「起」プロセスでは、ビジネスを発展させることをミッションとしている社長や事業部長などの提案相手が置かれている背景を理解するために、現状ビジネスを分析しました。これは、提案相手のフィールドに入るための準備でした。

 

トップの思い

この準備を基に、「承」プロセスでは提案相手と直接話をすることにより相手が置かれている状況についての分析を行い、相手のことをより理解することに取り組みます。ただし、直接話をするといっても、社外の提案相手であれば最初の訪問における挨拶の続き、社内であれば数十分程度の立ち話と考えておくのが現実的です。まだ、あなたとの信頼関係は構築される前ですから、数十分程度の会話の中で、「起」プロセスでの分析結果を基にポイントを絞って相手の状況を把握するための質問をすることが大切になります。

提案相手と直接話をすることで、提案相手が社外であれ社内であれ、ビジネスを預かる立場として組織内部をどう捉えていて、どういう課題認識を持っているのかを知ることができます。たとえ、得られる情報は限られたものであったとしても、提案作成において貴重な情報となるので感度を高くして話を聞くようにしてください。

さらに、どういう質問をするのかということもとても重要な要素です。「起」プロセスにおける準備もさることながら、提案相手の「思い」を聞き出すことがここではとても大切です。「起」プロセスでの準備を基にして自分なりに予測した上で、ビジネスの成功をミッションとしている提案相手が何を望んでいるのか、どういう思いでビジネスにかかわっているのかを聞き出すのです。しかも、相手の言葉や表現そのものが、提案を成功させるための大切なキーワードとなります。

今の状況下では、話をする機会がオンラインの会議しかなくて、直接話をするのが難しいことも多いかもしれません。そんな場合でも、会議が終わるときに「ちょっとだけ話を伺いたいことがあります」と声をかけ、5分でもよいので話をする時間を作ることに挑戦しましょう。「起」プロセスでしっかりと準備しておくことで、有効な5分間にすることができるはずです。

 

組織の強み・弱み分析

提案相手との一回の会話は短い時間ではあるものの、その機会を何度か持つことができるかもしれません。会話できた時間や得られた情報量にかかわらず、そうして聞き出すことのできた組織内部に対する認識や課題を基に、組織としての強み・弱みを分析します。「起」プロセスで分析したビジネスにおける外部要因分析に加え、より内部事情に切り込んだ分析をするということです。

この分析にもっとも適した手法の一つが SWOT 分析です。有名な手法なので実際に SWOT 分析したことがある人も多いと思います。クロス SWOT という発展形なども含めて使い方にはバリエーションがありますが、ここでは、自分なりにこれまでに分析した結果と会話から得られた情報を基に、提案相手の「思い」を実現するという視点で SWOT 分析を実施します。

 
SWOT分析

図1.SWOT 分析

 
SWOT 分析は、この図のように2軸で4つに分かれたセルで構成されています。左右は、実現したいことに対して助けになるか、妨げになるかという軸です。上下は、組織内部に由来することなのか、ビジネス環境(組織外部)に由来することなのかという軸です。組織や組織が置かれている状況をこの2軸によって、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)という4つの要因に分けて整理します。

強みには自社や自組織が他社や他組織よりも優れている要因を、弱みには逆に他社や他組織よりも劣っている要因をリストアップします。どちらも組織内部に起因する要因になります。そして、機会にはビジネスの外部環境として自社や自組織に有利に働く要因を、脅威には逆に不利に働く要因をリストアップします。

参考のため、架空のアナログ IC メーカーを想定した SWOT 分析をやってみました(図2)。提案相手と1〜2度話ができれば、このくらいの SWOT 分析ができるはずです。

 
架空のアナログICメーカーを想定したSWOT分析の例

図2.架空のアナログICメーカーを想定したSWOT分析の例

 
実際、この段階で得られた情報はまだ少ないでしょう。しかし、手に入れた情報だけで分析するのではありません。ここでは、分析結果や得られた情報を基に、それぞれの要因に対する仮説を立てて分析することが重要です。そうすることで、適切に質問することや、効果的に分析をアップデートすることができます。「起」プロセスで行った PEST 分析やファイブフォース分析と同様に、会話して新たな情報を手に入れる度に分析をアップデートすることも忘れないでください。

PEST 分析とファイブフォース分析についても、同じメーカーを想定した例を以下に紹介しておきましょう。この2つは、「起」プロセスでのビジネス外部環境分析ですから、提案相手と話ができなくてもこのような分析ができるはずです。

 
同じメーカーを想定したPEST分析の例

図3.同じメーカーを想定したPEST分析の例

 
同じメーカーを想定したファイブフォース分析の例

図4.同じメーカーを想定したファイブフォース分析の例

 
SWOT 分析では、大切なことがもう一つあります。それは、とくに「強み」にフォーカスして分析するということです。提案相手は課題ばかりに言及するかもしれませんし、これまでの分析は課題ばかりに注目しているかもしれません。実際、社長や事業部長は、自分たちの良いところや強みについて、自分の口からはなかなか出さなかったり把握できていなかったりすることが少なくありません。しっかりと聞き出す姿勢が必要不可欠です。質問も、単純に「強みは何ですか?」と聞くのではなく、「サポートに多くの工数がかかっているということですが、他社と比較して充実したサポートを提供できているとも言えるのではないですか?」というように、何を強みと考えているのかを深掘りして聞くことが大切です。

 

 

「承」プロセスでは、提案相手である社長や事業部長が、自分の会社や組織が置かれているビジネス状況や組織内部の事情をどう捉えているのかを聞き出し、理解することが狙いであり、そのために、SWOT 分析を活用するということをお伝えしました。とくに、社長や事業部長のビジネスに対する「思い」や「強み」を、一つでも多く聞き出すことが大切だということを忘れないでください。これが、提案を受け入れてもらうために重要な役割を担う情報となります。

次回からは、提案作成の中心とも言える「転」プロセスの詳細を解説します。お楽しみに。

 

執筆者プロフィール
日本ヒューレット・パッカード(HP)に入社し、R&D で半導体テスターなどの製品開発に従事した後、HP全社の開発・製造のデジタル化と仕組み改革にプロジェクト・リーダーとして参加。大幅な開発効率化を実現し、日本科学技術連盟石川賞を受賞。その経験をもとに開発マネジメントやプロジェクト管理、設計プロセスなどのコンサルティングを実施している。
コンサルティングを続ける中で、業務の仕組み改善は、個人の成長を伴うものであるべきとの思いが強くなり、コーチングや心理学を学び、組織と個人の両方に働きかけるコンサルティングを実施するために株式会社 RDPi を設立。組織と個人の両方に働きかけるコンサルティングを実施している。現在、日本ポジティブ心理学協会の理事を務めている。

●株式会社 RDPi : http://www.rdpi.jp/
仕組みと意識を変える RDPi:https://www.facebook.com/rdpi.jp
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Email : ishibashi@rdpi.jp

 

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