第1回 VUCA時代に必要なコンサルティング・マインド
2021年02月10日こんにちは、3年以上前になりますが、ここ Club-Z で「同時にやるシクミづくりとヒトづくり」というコラムを連載していた株式会社 RDPi 代表の石橋です。連載を読んでいただいていた方、お久しぶりです。お元気ですか。そして、新たに読んでいただいている方、はじめまして。どうぞよろしくお願いします。
簡単に自己紹介させてください。
九州大学を卒業後、日本ヒューレット・パッカード(HP)に入社し、R&D で半導体計測システムなどの製品開発に従事した後、開発・製造のデジタル化と仕組み改革にプロジェクト・リーダーとして参加しました。このプロジェクトは、今でいうところの DX といえるもので、大幅な開発効率化を実現し、日本科学技術連盟石川賞を受賞しました。その後、その成果を基に開発・製造の業務改革・改善を行うコンサルティング部門を創設し、主に製造業に対してコンサルティングを実施してきました。そんな中、組織レベルの仕組みだけでなく、管理者や技術者個人にもアプローチしたいという思いが強くなり、心理学やコーチングを学び、組織と個人の両方に働きかけるコンサルティングを実施するために株式会社 RDPi を設立しました。現在、日本ポジティブ心理学協会の理事を務めています。
「同時にやるシクミづくりとヒトづくり」を連載していた頃に較べ、激しい変化とともに、何が正解なのかがわかりづらい状況となっています。問題を技術的問題と考えるだけでなく適応課題と捉えることができる人材、すなわち、変化に対応できる人材が求められており、一人ひとりが自律して成長することがより重要になっていると思います。つまり、与えられた課題や上から指示されたことを実施すればよかったという時代から、管理者、リーダー、技術者といった職種に関係なく、一人ひとりが自分の成長を自分で計画して実行することで、変化への対応力を磨くことが必要な時代になったといえるでしょう。
これまでに蓄積した経験を基に、これから新たに「VUCA時代の自己開発と組織開発」というコラムをはじめます。このコラムでは、製品やサービスの開発・販売・保守などにかかわる方たちの自己成長と組織成長につながるテーマを紹介したいと考えています。VUCA とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった単語で、まさに今という時代を表している言葉といえます。
それでは、第1回のコラムをぜひご覧ください。
さて、私は製品やサービスの開発の領域で約 20 年コンサルティングにかかわっていますが、VUCAと呼ばれるこの時代、実際に顧客とのかかわり方が大きく変わっています。
従来は、製品やサービスの開発プロジェクトに参加し、開発のリードタイム短縮や品質向上など、開発プロジェクトそのものの成果が重要視されていましたが、今は、技術者やリーダー、マネジャーに対するトレーニングの観点が重要視されるようになってきていると感じています。そして、この VUCA への流れは、新型コロナによってさらに加速しているように思います。
VUCA への対応は大変ですが、良い製品や良いサービスを生むのに強く影響するのは最後は人ですから、よい傾向だと思っています。コンサルタントを利用しないで、社内で持続的な問題解決や改善を実施することが重要であり、そのための人材を育成、確保することに注力する傾向が強くなってきているということでしょう。
コンサルタントといってもいろいろなタイプが存在しますが、VUCA 時代に必要とされるのは、ビジネスレベルの広いスコープで現状や課題を捉え、仮説を立て検証しながら、統合的・包括的な解決策をデザインし、実行することのできるコンサルタントだと考えます。そして、コンサルタントだけでなく、設計、SE、営業といった職種に関係なく必要とされているスキルだと考えています。
私がこれまで実践を通して蓄積した知見を基に、このようなコンサルタントを育成するための基本の技術と姿勢や意識をまとめたものを、今回から数回に分けて紹介したいと思います。
コンサルタントのタイプ
ここでは、顧客に何を売るのか(セールスするのか)という観点で、コンサルタントを分類したいと思います。
顧客といっていますが、社外の顧客とは限らないことに注意してください。たとえば、設計者であれば、自分が持っていたり良いと考えたりしている技術やアイデアを、プロジェクト・マネジャーや設計部門のマネジャーにセールスし、採用してもらうということを含みます。ただ、現実は、上から与えられた仕事をするだけという受け身の設計者が多いという問題を抱えており、まずは自分の持っているものをセールスするまでの意識を持つことが必要だと思っています。
プロダクト・コンサルタント
技術も含めた既存のプロダクトやサービスを顧客に購入してもらったり、採用してもらったりするために、プロダクトやサービスの価値を顧客の事情に合わせて伝えるスタイルのコンサルタントです。そのプロダクトやサービスが、顧客の抱えている具体的な問題を解決したり、明確なゴールを達成できたりすることをわかってもらうことが重要になります。この場合、そもそもプロダクトやサービスの機能、性能、品質が優れたものかどうかが重要で、コンサルタントのスキルは相対的に低いといえます。
ソリューション・コンサルタント
顧客(繰り返しますが、社外も社内も含みます)は問題を抱えていることを把握しているものの、課題や目標を特定し具体化できていない場合があります。この場合は、顧客が抱えている問題や障害となっていることを分析して原因を特定し、自分が提供できる複数のプロダクトやサービスを組み合わせたソリューションを提供することが重要になります。プロダクトやサービスを組み合わせることで、顧客に提供できる価値はより大きなものになります。そうはいっても、解決する問題や提供するソリューションのパターンはある程度決まっており、実質はパターンを選択して提案しているだけといえるでしょう。
インサイト・コンサルタント
問題分析に基づいたソリューション・コンサルタントといっても、ある程度のパターンに則ったものしか提供しないため、顧客のニーズに応えることができない場合があります。さらに、問題解決能力を持ったソリューション・コンサルタントであっても、顧客が持っている情報や知見を把握し分析することが大前提となっているため、顧客が認識できている問題を解決するという枠を越えることはできません。
それに対して、ビジネスを続けることが難しくなるという問題に気づいていない顧客に対して、顧客やそのビジネス環境に対するインサイト(洞察)を提供し、潜在的な問題を顕在化して解決に導くのがインサイト・コンサルタントです。インサイトによって顧客が見えていないことを気づかせ、顧客が自ら設定している枠組みを越えることを導くという価値を提供することで、強固な信頼関係を構築することにつながります。社外の顧客であればビジネスレベルの大きな案件を獲得することになりますし、社内の顧客であれば差異化につながるビジネスモデルとなる可能性が高くなります。
インサイト・コンサルタントの基本スキル
ソリューション・コンサルタントの問題分析スキルは、インサイト・コンサルタントにも必要不可欠ですが、加えて次の基本スキルが大切です。
- ・推測による仮説構築
- ・固定観念や思い込みを取り払う視点
- ・感情に訴えるストーリー作成
推測による仮説構築
ソリューション・コンサルタントと同様に、顧客が抱えている問題を把握し、分析することは必要ですが、十分な時間をかけてヒアリングしたりアセスメントしたりするのは、顧客の負担が大きくなるばかりです。とくに、インサイト・コンサルタントの顧客となるのはビジネス視点の上級マネジャーであることが多く、彼らは時間的余裕がないことがほとんどです。したがって、顧客からの限られた時間で得られた情報をもとに、推測を加えて、顧客が抱えている課題の全体像を構築することが重要です。推測を含むので仮説構築と私はよんでいます。
固定観念や思い込みを取り払う視点
顧客が抱えているビジネスレベルの大きな問題は、解決方法やその糸口が見つからない複雑な問題となっていることがほとんどです。問題解決には、問題そのものの捉え方を変えることが必要になります。つまり、顧客が気づいていないことを気づかせるということです。気づいていないことを気づかせるのがインサイト(洞察)です。広範囲で複雑な問題は、問題認識やその解決方法に対する固定観念や思い込みが解決を難しくしています。したがって、固定観念や思い込みをなくし、ゼロ・リセットで問題や仮説を見ることが大切です。
感情に訴えるストーリー作成
インサイトによって顧客が気づいていないことを気づかせた上で、問題解決や目標達成のためのソリューションをデザインします。既存のソリューションをそのまま提供するのではなく、ソリューションを創造する姿勢が大切です。そして、仮説構築、インサイト、ソリューション・デザインといった一連の行為を、顧客の感情に訴えるストーリーにすることが大切です。ロジックにほころびがなく明確で、顧客の感情を揺り動かすことがセールスの成功につながるのです。
インサイト・コンサルティング・プロセス
このように、感情に訴えるストーリーを構成して顧客に提案することが大切です。ストーリーを表現する方法は各種ありますが、起承転結の枠で考えるとわかりやすいと思います。以下の図は、私が考えるストーリーの構成要素を示しています。同時に、提案を作成する際のプロセスにもなっているので、インサイト・コンサルティング・プロセスとよんでいます。
「起」は、顧客の関心を共有していることを示し、続く「承」では、顧客の強みと思いを言語化し、共感していることを示します。この2つの段階は地ならしというべき段階で、顧客と顧客が属している世界を十分に理解していることを示すことで信頼関係を築くことが狙いとなります。
「転」は、提案の核となる部分で、問題の大きさと問題の根本原因を示した上で、問題を放置したままにしておくとどうなるのかを伝えることで、顧客の危機感と当事者意識を高め、インサイトを使って解決する方法を示します。顧客の感情を揺り動かすことが狙いとなります。
「結」は、問題の解決方法とその実行手順を具体的に提示し、問題を解決した姿を具体的に顧客に示します。実行できる解決策であることと、解決することによって顧客が手にする価値を明確にすることが狙いとなります。
今回は、インサイト・コンサルティングが、ビジネスレベルの大規模で複雑な問題に対して効果的であることを紹介しました。いかがだったでしょうか?
次回以降では、図のインサイト・コンサルティング・プロセスの各ブロックについての詳細を解説します。
執筆者プロフィール 石橋良造 日本ヒューレット・パッカード(HP)に入社し、R&D で半導体テスターなどの製品開発に従事した後、HP全社の開発・製造のデジタル化と仕組み改革にプロジェクト・リーダーとして参加。大幅な開発効率化を実現し、日本科学技術連盟石川賞を受賞。その経験をもとに開発マネジメントやプロジェクト管理、設計プロセスなどのコンサルティングを実施している。 コンサルティングを続ける中で、業務の仕組み改善は、個人の成長を伴うものであるべきとの思いが強くなり、コーチングや心理学を学び、組織と個人の両方に働きかけるコンサルティングを実施するために株式会社 RDPi を設立。組織と個人の両方に働きかけるコンサルティングを実施している。現在、日本ポジティブ心理学協会の理事を務めている。 ●株式会社 RDPi : http://www.rdpi.jp/
●仕組みと意識を変える RDPi:https://www.facebook.com/rdpi.jp ●やる気の技術:https://www.facebook.com/motivation3.0 ●Email : ishibashi@rdpi.jp |