第5回 DC/DCコンバータってなに?(その1)
2018年04月25日皆さんこんにちは、日清紡マイクロデバイスの講師Sです。さて前回まで3回にわたって電源ICのひとつの主役であるリニアレギュレータについて説明しました。今回から、もう一方の主役であるDC/DCコンバータ (スイッチングレギュレータ)* について説明していきたいと思います。DC/DCコンバータの第1回目は降圧DC/DCコンバータ (スイッチングレギュレータ)* に絞って一定の電圧を生成する方法をリニアレギュレータと比較しながら説明しますのでその動作の違いを理解していただければと思います。
以降、「 (スイッチングレギュレータ)*」の記載は省略します。
降圧DC/DCコンバータ
図1にリニアレギュレータの基本回路と動作イメージを表した図を、図2,3に降圧DC/DCコンバータの基本回路と動作イメージを表した図を示します。
リニアレギュレータの復習
まず、比較のためにリニアレギュレータの動作を復習します。
図1に示したようにリニアレギュレータには可変抵抗としてのドライバが内蔵されており、ドライバ抵抗値RDと出力負荷抵抗RLとの抵抗比を調整することで負荷が必要とする電圧を生成しています。
例えば入力電圧 Vin が 5V、負荷が必要とする電圧 Vout = 2V、負荷が必要とする電流を Iout = 100mA とした場合を考えます。
負荷抵抗 RL は RL = 2V / 0.1A = 20Ω ですのでリニアレギュレータはドライバのオン抵抗を 30Ω に調整して、入力電圧 5V をドライバオン抵抗 RD = 30Ω と負荷抵抗 RL = 20Ω で抵抗分圧して 2V の出力電圧を生成しています。
すなわちリニアレギュレータの出力電圧は以下の式のように入力電圧を抵抗比で分圧した式で表されます。
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負荷抵抗(負荷電流)の変動
ここで、負荷抵抗が 20Ω から 10Ω に非常に緩やかに変化するとリニアレギュレータはドライバのオン抵抗 RD と負荷抵抗 RL の抵抗比を常に 3対2 に維持しながら、ドライバのオン抵抗を 30Ω から 15Ω に緩やかに調整します。すなわち負荷抵抗の大きさ(負荷電流)にかかわらず抵抗比は一定ということです。
入力電圧の変動
負荷抵抗 RL = 10Ω の状態で Vin が 5V から 8V に緩やかに変化した場合を考えます。Vin = 8V から Vout = 2V を生成するためには抵抗比 RD:RL の抵抗比は 3:1 が必要ですので、ドライバのオン抵抗 RD は、15Ω から 30Ω に緩やかに変化します。
以上の制御はリニアレギュレータが出力電圧を監視して、出力電圧が設定電圧の2.0Vになるように、ドライバのオン抵抗を調整することで実現しています。
降圧DC/DCコンバータの電圧生成方法
ここではイメージを掴んでいただくことを優先した図式で説明したいと思います。さて、図2に示したように、降圧DC/DCコンバータは入力電源側と出力間のハイサイドスイッチ、GNDと出力間のローサイドスイッチで構成されており、一定の時間比率でハイサイドとローサイドのスイッチを切換えてパルス波形を出力し、出力されたパルス波形を外付けのインダクタ(コイル):L とコンデンサ:C で構成されたローパスフィルタ(LCフィルタ)に入力することで平滑化して、負荷が必要とする電圧を生成しています。
降圧DC/DCコンバータのハイサイド側のスイッチがONする時間を Ton、ローサイド側のスイッチが ON する時間(ハイサイド側スイッチはOFF)を Toff とするとLCフィルターで平滑化された出力電圧はハイサイド側スイッチがオンしている時間の比率(以降、時比率またはデューティ比)できまります。すなわち、出力電圧を高くしたい場合には、デューティ比を大きくし、逆に出力電圧を低くしたい場合にはデューティ比を小さくします。正確に式で表すと
図3の例1は入力電圧が 5.0V でデューティ比が 50% の場合、出力電圧が 2.5V になることを示しています。同様に例2はデューティ比が 80% の場合、出力電圧が 4.0V になることを、また例3はデューティ比が 40% の場合、出力電圧が 2.0V となることを示しています。
このような時比率で制御する例としてはLED調光があげられます。LEDの輝度調整は人の目がちらつきを感じられない程、高速にLEDの点灯と消灯を交互に切換えて輝度調整をしています。人の目がローパスフィルターの役割をはたしています。総時間中の点灯時間が長くなれば人の目には明るくまた、点灯時間が短いと暗く感じられます。
以上はパルス電圧波形を LCローパスフィルターに通すことで平滑化してパルス電圧波形の時比率に対応した出力電圧が得られるという結果だけを示した説明になっています。
ローパスフィルターの概念はイメージしづらいかも知れません。リニアレギュレータのように抵抗分圧のような説明ができれば直感的でわかりやすいと思います。そこで降圧DC/DCコンバータの時比率による出力電圧の制御を時比率(Ton時間、Toff時間)に比例した並列抵抗のイメージに置き換えた説明を試みたいと思います。
このイメージを図に表したのが図4です。
Vin と Vout 間のハイサイドスイッチが ON している期間を並列抵抗で表現しその合成抵抗を Ron、同様に Vout と GND間のローサイドスイッチが ON している期間も並列抵抗で表現しその合成抵抗を Roff としています。このイメージによれば出力電圧 Vout が入力電圧 Vin を Ron と Roff で抵抗分圧した電圧で表すことができます。
注)抵抗分圧のイメージを説明していますが、ハイサイドスイッチとローサイドスイッチが同時に ON しているわけではありませんので実際には Vin から Ron、Roff を通って GND に向かって直接電流が流れるわけではありません。
Ron は Ton の逆数に比例し、Roff と Toff の逆数に比例する関係ですので、この関係式を使って図4の中で示したように出力電圧 Vout は Vin × 時比率(Ton/(Ton+Toff))という式が導き出されます。
リニアレギュレータでは入力電圧が一定の場合に負荷抵抗(負荷電流)が変動すると負荷抵抗とドライバ抵抗の抵抗比を維持するようにドライバのオン抵抗を調整することで一定の出力電圧を生成しています。
一方、図4でも示したように降圧DC/DCコンバータでは出力電圧は時比率だけで決まり負荷電流が関わっていません。これはどのように考えればよいのでしょうか。これをイメージで表したのが図5です。
図5では負荷電流に相当する奥行きを持たせた図にしています。(図4でも同様の図にしています。) 図5は負荷電流の増減はこの奥行きの幅を増減させますが時比率には影響しないことをイメージした図です。例えば、負荷電流が増加するとそれに相当する奥行き方向の幅が広がります。これはあたかも負荷の電流経路幅が広がるイメージであり、それによってスイッチ、コイル側でも自動的に電流経路幅が広がることを表しています。したがって負荷電流の増減は出力電圧や時比率には影響しないことになります。
なお、図5ではローサイド側の並列抵抗の図を省略していますが、図4と同様と考えてください。
以上の説明で降圧DC/DCコンバータをイメージして頂けたでしょうか。
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負荷抵抗(負荷電流)の変動
降圧DC/DCコンバータの出力電圧の式
には電流が含まれていませんが、先の説明の様な電流経路が変動することで、一定のデューティ比を維持したままでも電圧が維持されます。
今後、今回説明した電流経路のイメージについても触れていきたいと思います。
入力電圧の変動
入力電圧 Vin が 5V から 8V に緩やかに変化した場合を考えます。Vin = 8V から Vout = 2V を生成するためにはデューティは 25% 必要です。デューティ比 = Vout / Vin の関係を維持しながらデューティは 40% から 25% に変化します。
表1にリニアレギュレータと降圧DC/DCコンバータの電圧生成方法をまとめておきます。
リニアレギュレータ | 降圧DC/DCコンバータ |
ドライバの抵抗と負荷抵抗の抵抗比 Vout = Vin × ( RL /( RD + RL )) RD:ドライバのオン抵抗 RL:負荷抵抗 |
入力電源と出力間のスイッチの時比率 Vout = Vin ×( Ton /(Ton + Toff )) Ton:入力電源と出力間スイッチオン時間 Toff:入力電源と出力間スイッチオフ時間 |
表1:電圧生成方法
おわりに
今回は、DC/DCコンバータを理解して頂くためにリニアレギュレータと比較することが可能な降圧DC/DCコンバータに絞って、その電圧生成方法が時比率制御であることを説明しました。時比率制御はDC/DCコンバータ全般の基本的な制御方法です。次回はDC/DCコンバータがその特徴や特性からどのような用途に使われるかをリニアレギュレータと比較しながら説明したいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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執筆者プロフィール 講師S (日清紡マイクロデバイス株式会社 設計センター 設計技術部) 入社以来長期に渡り、ゲートアレイ・マイコン・メモリ・電源ICなどアナログ・デジタルの各種設計に携わる。その後、複合電源ICのテスト技術も極める~設計・テスティングとその教育のスペシャリスト。毎年入社してくる技術者の卵に対する、聞き手目線の優しい解説と丁寧な指導は社内でも有名。その実績を買われ、現在はシニアエンジニアとして後進の育成や新規技術の相談役として活躍中。 日清紡マイクロデバイス株式会社について 世界に先駆けて製品化を実現したCMOSアナログ技術をコアとして、携帯機器市場向けには小型・低消費電力の電源ICを、車載・産機市場向けには高耐圧・大電流・高性能を特長とした電源ICを、Liイオンバッテリ市場向けには小型で高精度な保護ICを提供し、お客様製品の付加価値向上に貢献しています。 日清紡マイクロデバイス公式サイトはこちら |