第6回 DC/DCコンバータってなに?(その2)
2018年06月27日皆さんこんにちは、日清紡マイクロデバイスの講師Sです。さて前回はDC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)*について理解していただくために降圧DC/DCコンバータに絞って、一定の電圧を生成する方法が時比率制御であることを説明しました。今回はその時比率制御によって理想的には効率100%を実現できるということ、さらにそれを生み出すためのコイル(インダクタ)の機能について説明し、最後にDC/DCコンバータの特徴をリニアレギュレータと比較し、その特徴からどのような用途に使われるかをリニアレギュレータと比較しながら説明したいと思います。
*以降、「(スイッチングレギュレータ)」の記載は省略します。
降圧DC/DCコンバータの時比率制御と効率
図1と図2に前回と同じ降圧DC/DCコンバータの電圧生成方法の図を再録します。前回は時比率制御されたDC/DCコンバータからのパルス出力がLCローパスフィルタによって、時比率に対応した一定の電圧に変換されることに注目して説明を行いました。
では、入力電源側に着目すると、どのようなことが言えるでしょうか?
入力電源から供給される電圧と電流はDC/DCコンバータによってパルス列に変換されています。すなわち入力電源側から見ると電源(電圧と電流)を供給している期間は図に示したTon期間のみで、Toff期間は電源からの電圧と電流の供給は停止しています。
では、電源からの供給が停止しているToff期間の電流は、どこからどのようにして出力に供給することができるのでしょうか?その役目を担っているのがコイル(インダクタ)です。
前回説明したようにコイルには、出力コンデンサと組合わせると、時分割されたパルスを平滑化して一定した出力電圧を生成するためのフィルタの役目がありますが、それだけではなく、エネルギーの蓄積と放出というDC/DCコンバータにとってとても重要な役割があります。
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コイル(インダクタ)の性質とDC/DCコンバータにおける機能
コイルに電流が流れるとその電流値とコイルのインダクタンス値で決まるエネルギーが磁気エネルギーとしてコイルに蓄積されます。
コンデンサも同様に電荷を充電することでエネルギーを蓄積し、放電するまでの間エネルギーを保持し続けることが出来ますが、コイルの場合にはエネルギーの供給が終わると直ちに放出が始まります。
図3は降圧DC/DCコンバータのスイッチ動作とそのときの電流の流れを示した概略図です。Step1 は図1、2で示したTon期間の電流の流れを、またStep2はToff期間の電流の流れを示しています。Ton期間には電源は負荷が必要とする電流Ioutをコイル経由で供給するとともに、コイルにはIoutの電流が流れることによってエネルギーが蓄積されます。
一方Toff期間はTon期間にコイルに蓄積されたエネルギーが電流として放出され、その電流はGNDから供給されることになります。この動作によって電源からの電流供給はTon期間のみですが、負荷にはIoutの電流が連続して供給されることになります。
例えば負荷が必要とする電流を 100mA とした場合、Ton期間に電源側から 100mA の電流が供給されたあとToff期間にはGND側から 100mA の電流が供給されることになります。
入力電力は Vin×Iout の電力が( Ton / ( Ton + Toff ))期間だけ供給されますので
入力電力 = ( Vin × Iout )×( Ton /( Ton+Toff )) ・・・・・①
となります。 一方、出力電力は
出力電力 = Vout × Iout ・・・・・・・・・・・・・②
です。ここで、出力電圧 Vout は前回の講座で説明したように
Vout = Vin ×( Ton /( Ton + Toff )) ・・・・・・・・・③
③式を②式に代入すると
出力電力= Vin ×( Ton /( Ton + Toff ))× Iout ・・・・・・④
となり、式①の入力電力と式④の出力電力は等しくなります。
本講座の第4回で説明したように電源ICの効率は
効率(%)= 出力電力(W)/ 入力電力(W) ・・・・・・・⑤
ですので、理想的にはDC/DCコンバータの効率は 100% になることを示しています。
これがDC/DCコンバータの最大の特徴(メリット)になります。
これを、リニアレギュレータと比較したイメージ図で示したのが、図4になります。
(事例) Vin=5V、Vout=2V Iout=100mA の場合を考えます。
リニアレギュレータは内部の出力ドライバトランジスタで電力を消費することで出力電圧を一定にしています。本講座の第4回で示しましたように理想的なリニアレギュレータの効率は次式で表されます。
効率(%)= 出力電圧(V) / 入力電圧(V)
すなわち Vin=5V、Vout=2V、Iout=100mA の場合の事例では効率は 40% ということになります。
一方、降圧DC/DCコンバータでは、図2の最後に示しました事例に相当しており、時比率 Ton /( Ton + Toff )は 40% になります。
出力電力は Vout × Iout = 2V × 100mA = 200mW
に対して、入力電力は 5V×100mA を時比率の 40% の期間だけ供給することになります。
入力電力は Vin × Iout × 時比率 = 5V × 100mA × 40% = 200mW
となり、出力電力と入力電力が等しくなりますので、効率は 100% という計算になります。
すなわち、理想的は降圧DC/DCコンバータでは効率は 100% を実現することが出来ます。
注)なお、図3のイメージ図や先の説明はリニアレギュレータICやDC/DCコンバータICの自己消費電流や外付け部品での損失等のない理想的な場合を前提としています。
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リニアレギュレータとDC/DCコンバータの特徴の比較と用途
ここまで、DC/DCコンバータをリニアレギュレータと比較して説明してきましたが、ここでリニアレギュレータとDC/DCコンバータの特徴を比較して、その用途について考えたいと思います。
リニアレギュレータとDC/DCコンバータの代表的な特徴を比較した結果を下表に示します。
●効率
今回説明してきたようにDC/DCコンバータは理想的には効率 100% を実現することが可能であり、これがDC/DCコンバータの最大の長所と言えます。DC/DCコンバータの内部損失、スイッチングで生ずるスイッチング損失等により実際の効率は 80~95% 程度になります。
一方、リニアレギュレータは出力ドライバでエネルギーを消費することで負荷が必要とする電圧を生成しており、先に示したように効率は次式で表されるため高い効率は望めません。
効率(%)= 出力電圧(V)/ 入力電圧(V)
ドロップアウト電圧が非常に小さい LDO を使って、入出力電位差が最小限となるようにして使用すればDC/DCコンバータ並みの効率を実現することが出来る場合もあります。
●出力電流
DC/DCコンバータは高効率であることからCPU等の大電流を必要とする用途に向いています。一方リニアレギュレータは出力ドライバで電力を消費するため大電流用途には不向きです。
●ノイズ
リニアレギュレータは入力電圧を出力ドライバのオン抵抗と負荷抵抗で抵抗分圧するという静的な方法で出力電圧を生成するために、基本的にノイズの発生はありません。
(ここで取り上げているノイズは、リニアレギュレータ、DC/DCコンバータに共通のホワイトノイズや1/fノイズは対象としていません。)
一方DC/DCコンバータは入力電源を出力電圧/入力電圧に比例した時比率でスイッチングさせるためスイッチングノイズの発生が避けられません。このノイズ発生がDC/DCコンバータの大きな短所になります。
発生するノイズ周波数はDC/DCコンバータのスイッチング周波数とその高調波です。これらの周波数帯域のノイズでは影響を受けない用途には使うことができます。
●出力電圧
リニアレギュレータは出力ドライバのオン抵抗と負荷抵抗で入力電圧を抵抗分圧することで出力電圧を生成するために、降圧動作しか実現できません。一方DC/DCコンバータにはここまでリニアレギュレータと比較するために説明してきた降圧動作以外に、コイルのエネルギー蓄積、放出という機能を使えば、電源、コイル、スイッチの接続の仕方を変えるだけで入力電圧より高い電圧を作り出す昇圧動作や、入力電圧と反対の極性を持つ電圧を作り出す反転動作も実現することができるという大きな特徴があります。(次回説明予定です。)
●回路規模
リニアレギュレータの基本的な内部回路は基準電圧源、エラーアンプ、帰還抵抗、出力ドライバトランジスタという4つの要素だけで構成されており、比較的小規模で、また外付け部品も入力コンデンサと出力コンデンサのみで動作させることができ、設計も容易です。
一方DC/DCコンバータは基準電圧源、エラーアンプ、時比率を制御するための発振回路やコンパレータ、ハイサイド側のスイッチ、ローサイド側のスイッチなどで構成されており、回路が複雑でまた規模が大きく、さらに外付け回路としてコイルが必要となるため設計が難しくコスト的にも高くなります。
以上のような特徴(長所、短所)の比較から、リニアレギュレータとDC/DCコンバータの用途の概要は以下のようになります。
センサーなどノイズを嫌う用途、負荷電流が小さく効率よりも低消費電流が必要な用途に向いています。また、リップル除去性能を利用して電源供給先とDC/DCコンバータの間に挿入し、DC/DCコンバータのスイッチングノイズを遮断する用途に使われる場合もあります。
高効率を必要とする用途、また高効率を前提に大電流を必要とするCPUや大規模デジタル回路向け、また入力電源より高い電圧や、負電圧を必要とする用途に使われます。
おわりに
今回はDC/DCコンバータの最大の特徴である効率の良さが、その構成要素であるコイルのエネルギー蓄積と放出という特徴を利用して実現できていることを説明しました。またリニアレギュレータとDC/DCコンバータの特徴の比較から、それぞれの用途について触れました。
次回はコイルのエネルギー蓄積、放出という機能を使って、電源、コイル、スイッチの接続の仕方を変えるだけで入力電圧より高い電圧を作り出す昇圧動作や、入力電圧と反対の極性を持つ電圧を作り出す反転動作も実現することができること、代表的な時比率制御の方式などについて説明したいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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執筆者プロフィール 講師S (日清紡マイクロデバイス株式会社 設計センター 設計技術部) 入社以来長期に渡り、ゲートアレイ・マイコン・メモリ・電源ICなどアナログ・デジタルの各種設計に携わる。その後、複合電源ICのテスト技術も極める~設計・テスティングとその教育のスペシャリスト。毎年入社してくる技術者の卵に対する、聞き手目線の優しい解説と丁寧な指導は社内でも有名。その実績を買われ、現在はシニアエンジニアとして後進の育成や新規技術の相談役として活躍中。 日清紡マイクロデバイス株式会社について 世界に先駆けて製品化を実現したCMOSアナログ技術をコアとして、携帯機器市場向けには小型・低消費電力の電源ICを、車載・産機市場向けには高耐圧・大電流・高性能を特長とした電源ICを、Liイオンバッテリ市場向けには小型で高精度な保護ICを提供し、お客様製品の付加価値向上に貢献しています。 日清紡マイクロデバイス公式サイトはこちら |