第1回 配線ミス、記録漏れ、繰り返し作業…測定ってもっと楽にできないの?
2025年07月24日試作評価や量産前の検証で測定作業に関わっていると、こんなことを感じたことはありませんか?
・測定がとにかく面倒
・計測条件の設定が複雑で手間がかかる
・配線が多すぎて、何がどこにつながっているか分からない
・測定結果の記録が曖昧で、再現性がない
・ソフトウェア変更のたびに計測をやり直す羽目に
本連載では、そんな悩みを抱える回路設計者・テスト技術者の皆さんに向けて、「測定作業の常識を変えるヒント」をお届けしていきます。具体的にはPXI/LXIベースの測定自動化とピカリング インターフェース社製品の活用法をテーマにしています。「もっと簡単に、もっと早く、もっと確実に測定したい」…そんな想いを持つ方々に、少しでもお役立ていただければ幸いです。
さて、図1のようなスイッチボックスを目にしたことはないでしょうか? 会社で見かけた方は、その作業を自動化できるチャンスです。
手作業に頼りきりの測定環境
たとえば、ある回路の評価において、「測定対象の電源を立ち上げ、I/O信号を設定し、電流波形を記録する」──そんな作業をする際、手動でケーブルの切替えやスイッチボックスのつまみ操作、マルチメータやオシロスコープのマニュアル操作などを繰り返していませんか?
測定結果の信頼性はもちろん重要ですが、再現性や記録性がなければ、後工程での解析や品質保証において不安要素になります。特に近年は開発スピードが求められる中で、測定そのものがボトルネックになるケースも増えています。
見えない”測定のムダ”とは?
実際に多くの計測現場、テスト現場では、下記のような「見えにくい非効率」が起こっています。
こうした問題は、一見すると大したことがないように思えます。
しかし、試作1枚の評価に1人日かかっていた測定が、改善によって半日以下になれば、積み重ねれば1プロジェクトあたり数十時間の削減も可能です。今日の人手不足の状況では、潜在的なムダを削減することが重要になっています。
PXI・LXIってなんだろう?
「測定を自動化するための仕組み」は、PXIとLXIという名前で規格化されています。
PXI(ピー・エックス・アイ)とは?
測定器をレゴブロックのようにモジュール化して、1つの筐体(シャーシ)に差し込んで使う仕組みです。
オシロスコープ、デジタルマルチメータ、スイッチなどを1台の筐体にまとめ、配線もソフトもすべて一体化できます。PXIに対応したスイッチングモジュールはさまざまなメーカから販売されています。1つの筐体に、複数のメーカのモジュールを混在させて、測定対象に合わせた最適な組み合わせにすることも可能です。
LXI(エル・エックス・アイ)とは?
測定器やスイッチをLANケーブル(イーサネット)でPCとつないで制御する規格です。
コンパクトな装置を机上に置いて使いたい場合や、離れた場所から測定を操作したい場合などに適しています。
どちらも、「測定器やスイッチをPCから制御し、測定結果を自動で記録できる」ことが特徴です。
英国 ピカリング インターフェース社(Pickering Interfaces社)では、計測作業を自動化するPXIスイッチングモジュールを1,000種類以上扱っています。このPXIモジュールは、LXIシャーシに組み込むことにより、LANもしくはUSBから制御することもできます。その他、PCIバス用のスイッチカードも用意されており、小規模でも手軽に計測作業を自動化することができます。
スイッチボックスで誰もが陥る”よくある困りごと”
「テスト条件を変えるために、数十個のスイッチを切り替えるのは大変…」
「スイッチを切り替える順番を間違えると、最初からテストをやり直し…」
「1枚の基板をテストするのに1時間以上かかってしまう…」
「このスイッチボックスを別の製品に使いたいけど、担当者がいなくなりメンテナンスできない…」
「配線が多くて、正直スイッチボックスを触りたくない…」
熟練の技術者が組んだ測定冶具(スイッチボックス)は、確かに手早く測定できる便利な道具ですが、測定対象が数十点を超えるような多チャンネル測定では、チャンネルの切替えだけで数十分かかることもあり、作業の負担を無視できません。
さらに、設計変更や仕様追加に対して柔軟性がなく、メンテナンス性や引き継ぎ性に大きな課題があります。
測定作業も”自動化”の時代へ
測定って、もっと楽にできないの?
答えは「できます」。
たとえばPXIスイッチングモジュールを使えば、
配線の切替えをソフトウェアで制御でき、測定項目をスクリプト化して一括で処理することも可能です。
・デジタルマルチメータやオシロの接続先をPCから1クリックで切替え
・測定ログをCSV形式で自動記録し、手書きの必要なし
・測定条件ごとにテストシナリオ(レシピ)を呼び出して再現性のある試験を実現
・測定項目のループ化で時間短縮&人的エラーの排除
・ソフトウェア変更時の性能評価を1クリックで実行
こうした自動化の恩恵は、何も大規模工場や先進企業だけの話ではありません。「まずは1つの測定だけ」でも大きな成果が得られることもあります。
次回予告
次回は、スイッチボックスの限界と、なぜ今それを見直すべきなのかを掘り下げます。
長年使ってきた”便利な道具”が、実は今の開発スピードと精度要求に合っていない。
そんなギャップに気づいたときこそ、新たな選択肢を考えるチャンスです。
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執筆者プロフィール 谷口 正純(たにぐち まさずみ) アンドールシステムサポート株式会社 入社後、組込み機器や産業機器の回路設計を担当。 現在は、自動テスト向けのスイッチングソリューションおよびセンサシミュレーション、JTAGテストツールのマネージャとして、テストおよび計測作業の自動化支援に取り組んでいる。 また、エレクトロニクス実装学会では、テストと計測の自動化を通じて、日本のモノづくりの品質と生産性向上に貢献する活動を推進中。 |